タテ社会病から抜け出す3つの方法
北欧で平等意識が強い社会が実現したのは、歴史的な背景があり、そのまま日本の企業で再現できるものではない。個人間の上下関係を重んじ、とげとげしい対立を避けるタテ社会の特徴は、アメリカ的な競争社会のストレス弊害を防ぐ効能がある。タテ社会のよさを残しつつ、タテ社会の弊害を少なくする方法はないのだろうか?
私は、北欧企業で働く日本人が北欧の人たちと接して、「自分たちは平等に処遇されている」と感じているところに注目した。北欧人が、「自分たちと海外の人たちは平等である」と本心から信じているかどうかは問題ではなく、彼らが、各国の従業員が平等であると感じられるようなコミュニケーションをとっていることが重要なのだ。彼らのコミュニケーションのとり方のよいところを取り入れられれば、多少なりとも、タテ社会の弊害は減少するだろう。
北欧流コミュニケーション術は以下のとおりである。
(1)相手が何を言っているかに集中せよ
日本の会議では、「何を言っているのか」よりも、「誰が言っているのか」を、出席者が気にしている場面によくぶつかる。社長が発言しようとすると、前傾姿勢で耳を傾け、若手の担当者の発言の番がくると、腕を組んだり、しかめっ面をする人が1人や2人いるものだ。発言内容でなく、発言者の序列を評価しているのだ。部下に対して「そういうくだらない意見を聞きたくない」と平気で言う上司もいる。評価と断定は対話を台無しにする。
日本人の多くは、先輩は後輩を評価できると、無意識のうちに刷り込まれている。しかし、議論をするとき、相手のポジションを値踏みしたり、相手の意見を評価しながら聞くことは厳禁。評価と事実は違う。ビジネスで大事なのは、あなたの評価ではなく、事実なのである。
(2)目的本位であれ
北欧人の思考方法の特徴は実利主義である。寒冷な気候のなかで生き延びるための知恵といわれている。ビジネスの実利とは、「もうけること」である。もうけるためには、ライバル企業を凌駕する品質の商品やサービスを創造しなければならない。優良な北欧企業が価格競争をせず、利益をあげている秘訣がここにある。
先輩や上司に反対意見を述べることは失礼なことだと思い、議論を避けてしまえば、創造的な企業活動は生まれない。ところが日本人は、本来の目的を忘れて、先輩や上司の気持ちを傷つけない方向にいってしまいがちなので注意が必要である。
(3)議論に時間をかけ、コンセンサスをとれ
北欧人はコンセンサスを大切にする人が多いといわれている。コンセンサスを重視するあまり、北欧企業は、欧米企業に比べて意思決定が遅いという批判があるが、北欧企業で働く人は「コンセンサスをしっかりとってから意思決定をするので、そのあとの仕事の進捗が速く、開始から目的達成までの総時間は変わらない」という。
タテ社会では、偽のコンセンサスがまかり通る。会議のあとで、「本当は反対だったけれど、あの場の雰囲気では言い出せなかった」などと愚痴る人にしばしば出会う。私は議論を少人数ですることをクライアント企業に勧めている。出席者が多くなると、タテ社会的プレッシャーが強くなり、その場の空気を読むことに神経をすり減らし、偽のコンセンサスで我慢をしてしまうからだ。