北欧企業が平等な関係を重視する理由

タテ社会病を克服する方法を考えるうえで、ベンチマークの対象にしたのが、北欧企業である。なぜ、アメリカや西ヨーロッパの企業ではなく、北欧企業なのか?

それは、タテ社会の正反対に位置するのが、企業文化的には北欧だからというのが一番の理由である。「平等」といえばアメリカではないか、と考える読者もおられるだろう。しかしアメリカでは、アメリカ的な価値観を受け入れさえすれば平等だが、そうでないと徹底的に改善を求め、自分たちの価値観を強制する傾向がみられる。これはビジネスのみならず、政治の世界でも同様だ。

一方、今回取材したスウェーデン、デンマーク、フィンランドの企業では、異なる価値観をもつ日本人従業員を、本国の従業員と同じように処遇していた。また上司と部下の関係も、役割の違いはあるが、議論においては平等であった。

インタビューに応じていただいた井上和夫さん(仮名)は、デンマークに本社があるグローバル企業で、約30年(役員15年)勤めた人だが、「現地法人の業績に関係なく、現地の意見を真摯に聞き入れる点では一貫していた」と述べている。

現在、スウェーデン企業の日本法人の製造部長の要職にある浦崎直人さんは、工業高校を卒業後、約8年、日本の小さなメーカーの職人的な仕事をしていた。その後スウェーデン企業に転職し、製造計画の立案実行で認められ、世界的な部品供給ネットワークづくりにも成功した。「入社したときは、英語はまったく理解できなかったので、必死になって勉強した。やる気があれば、どんどん仕事を任せてもらえた。学歴や人種に関係なく、議論においても、機会においても平等だと思う」と語った。

成功している北欧企業には、次のような特徴がある。

(1)海外売り上げの比率が高い(北欧諸国は人口が少なく、国内市場が狭いので、海外で生きていくことが唯一のサバイバル方法である)
(2)それぞれの分野では、世界トップクラスの技術をもっている
(3)多角化戦略をとらず、ある分野に特化してビジネスを展開している
(4)価格競争をせず、利益率が高い

このなかで、「平等」に関係が深いのが、(1)と(2)である。海外で売り上げを伸ばそうとすれば、現地法人が柔軟に、それぞれの国の事情に合わせて企業活動をする必要があり、そのためには本国と現地の人が対等の立場で議論しないと、効果的な活動はできない。人種的な偏見があれば、現地の顧客から反感をもたれるし、現地の従業員のモチベーションは下がってしまう。北欧企業にとって、平等は倫理的な課題でなく、生き残るための手段である。

次に、「世界トップクラスの技術をもっている」ことと平等とは、どのような関係があるのだろうか。

いくら優れた技術でも、陳腐化は免れない。トップクラスの技術革新を継続するには、創造的なアイデアをよりたくさん生み出すことができ、失敗をしても、お互いが励まし合って新たな挑戦をする組織風土が欠かせない。欧米の学会の例で説明したように、優れた考えをもった人が、性別、年齢、人種に関係なく、どんどん意見を言えるほうが、創造性を発揮できる。先輩や年長者、上司に対して遠慮してものが言えない「タテ社会度」が増せば増すほど、企業は創造性を失くし、衰退していく。