最初に怒られてから褒められると、もっと弱い
先の人助け詐欺の場合、詐欺師らは災害の悲惨な現状を訴えることで、電話の相手の心を落ち込ませてくぼをつくる。その上で相手に「あなたしか、できないことなのです」と訴えて、期待をかけてだます。
私も悪徳商法の潜入先で、よくこの手を使われた。
私が勧誘者から1時間ほど話を聞いて、契約締結をしない旨を伝えると、勧誘者はこう言って急に怒り出す。
「そんな決断力のないことでは、これからの人生は絶対に成功しません」
「この場で契約できない、こんな優柔不断な男性はみたことがない。このままでは、あなたはどっちつかずの人生になって、一生、結婚できない」
相手は私を睨み付けている。当時、40代独身で若干思い当たるところがあり、落ち込んだ様子をみせると、急に女性は優しい口調になり、次のようなことを言い始めた。
「厳しいことを言ってごめんなさいね。でもこれはあなたの将来のことを真剣に考えているから、言ったことなのよ」
しまいには、
「こんなにあなたのことを真剣に思って、真正面から厳しい言葉を口にした人はいますか」などと情に訴えてくる。要は、あなたは将来のある人で、期待しているから厳しいことを話したというのである。
そしてそれから再び、長い勧誘話が始まることになった。
いずれにしても、部下や交渉相手を動かすためには期待をかける飴だけでなく、その前に厳しい言葉の鞭を与えることが必要になる。鞭の後の飴は相手の心に大きく響くものだ。
しかし特に鞭をふるわなくても、良い場面もある。それは部下が仕事を失敗して、窮地に陥っているケースや、顧客がどうしてよいかわからない悩みを持っているケースである。この状況では、すでに相手の心は落ち込んでいるので、その状況のなかで期待をかけて気持ちを引き上げてあげればよいのである。