いまやネット通販で買えないものはない。「これは無理だろう」と言われてきた商材すら呑み込みつつある。とりわけ、勢いに乗る「勝ち組」のビジネスモデルには、「リアル」との連携という共通点があった──。

ブログの「炎上」がファンを連れてきた

「e☆イヤホン」を運営するタイムマシンの大井裕信社長/1972年生まれ。PC専門店ソフマップの執行役員を経て、2007年に大阪で起業。11年、東京に進出。

雑居ビルのエレベーターを下りると、目に飛び込んでくるのはヘッドホン。その先の店奥に並ぶのは、やはりヘッドホン。混み合う店内で、客は自前の音楽プレーヤーにプラグを差し込み、商品から聞こえる音に集中している。ここは秋葉原に店を構える専門店「e☆イヤホン」。近年、家電量販店でも目につくようになる試聴スタイルを、いち早く始めた店である。

「中古から新品まで、世界中のイヤホン、ヘッドホン約4000機種を揃えていて、ここでは1000機種以上の試聴ができます」

店舗を運営するタイムマシンの大井裕信社長は胸を張る。そこには取り扱う商品分野を広げずに専門性を深めていく、また別の経営スタイルがあった。

特徴ある専門店を手がけたいと考えていた大井が、PC専門店「ソフマップ」の役員を辞し、大阪に1号店をオープンさせたのは2007年のこと。いい音を直接聞いてもらえれば必ず売れると疑わなかったが、立地の悪い店に客はなかなか現れない。来客数が3人だけの日もあった。

「実店舗で売れないならネットで売ろうと、まずネット上のモールサイトに商品を出しました。それなりに売れましたが、苦しい経営状況で販売手数料を取られるのがもったいなくて、すぐに自社サイトを作ったんです」

店を知ってもらうため、こつこつとブログを更新し、SNSのコミュニティに参加して発言した。名をあげたきっかけは“炎上”である。日本の量販店では国内メーカーが強いため、海外メーカーの商品が店頭に置かれる機会がほとんどなかった。そんな中、大井はオランダの老舗メーカー・フィリップスの商品に惚れ込み、「国内メーカーより安くて音もいい」とブログで絶賛。国内メーカーの愛用者などから激しく非難されたが、「嘘だと思うなら試聴してほしい」と訴え、徐々に商品の評価も高まっていった。以後、積極的に海外製品を紹介する同社のレビューには注目が集まるようになった。