「確たるビジョン」があってこそ優勝がある
実際、金村は落合中日との日本シリーズ第4戦に先発。5回を5安打無失点に抑え、勝利投手になっている。
札幌ドームに詰めかけた4万1835人の観客が固唾を呑んだのは、5回裏二死の場面で、監督のヒルマンがマウンドに向かったシーンである。
後日、金村は真相を明かしている。
「あのときと同じ5回裏二死という場面で、あえてヒルマン監督がマウンドにきたんです。彼らしい演出でした。冗談で、『フクドメ(福留孝介)を歩かせるか?』と聞くんです。歩かせるわけないでしょ。次が、4番のタイロン・ウッズなんですから(笑)」
試合後、金村はヒーローインタビューに臨み、深々と頭を下げた。
「全国のファンの皆様、この場をお借りして改めて謝罪したいと思います。本当にどうもすみませんでした」
そして、大粒の涙を浮かべ、ヒルマンと抱き合い、一件落着となったのである。
この事件は、異邦人のヒルマンにとって、日本時代に経験したいちばん大きなカルチャーショックだったであろう。
「彼が日本や日本人をどこまで理解し、愛していたかはわかりません。ただ、日本食には箸を付けず、“ブリート”というメキシコ料理からヒントを得たアメリカのファーストフードをいつも買って食べていました。牛肉、豆、チーズなどを小麦粉でつくった皮で巻いたものです。彼の特技はギターの弾き語りで、人から求められると、イーグルスの『ピースフル・イージー・フィーリング』を披露していました」(元担当記者)
落合博満監督率いる中日との日本シリーズは、終わってみれば、4勝1敗の完勝。
両監督のコメントは対照的だった。
「ここまで平らな道ではなかったが、確たるビジョンがあって、この日を迎えることができた」(ヒルマン)
「日本ハムというより(中日が日本一から遠ざかっている)52年の厚い壁にはね返された。強いものが必ず勝てないのがスポーツの世界だ」(落合)
禍福は糾える縄の如し。翌年も日本シリーズは同じ顔合わせになったが、今度は落合中日がヒルマン日ハムを4勝1敗で倒すことになるのである。
683試合 349勝320敗14引き分け 勝率5割2分2厘
(文中敬称略)※毎週日曜更新。次回、落合博満監督