「松下幸之助、出光佐三、土光敏夫ら戦後日本の経済界の礎を築いたビジネスマンの生き様を振り返ってみると、社会で責任ある人のとるべき行動を示した武士道の忠実な実践者だったことがわかってくる」
こう語るのはコンピュータソフトの販売・サービス会社であるアシストのビル・トッテン社長だ。1941年に米国・カリフォルニアで生まれたトッテン社長が初めて日本の土を踏んだのは69年。当時勤めていたコンピュータのシステム会社の仕事で日本市場を調査するのが目的であった。
初めて目にした日本人ビジネスマンの姿は、目先の利益ばかりを追い求める米国人ビジネスマンのそれとは異なるものだった。口約束であっても守るのは無論のこと、社会貢献の意識が当然のように身に付いていたのだ。そこでトッテン社長が思い出したのが大学院で学んだ『論語』であり、「その教えが生きているのではないか」との思いに至る。
それからというもの、暇を見つけては日本の歴史や思想に関する英文の書籍を探し求めては、貪るように読んだ。そして、そのなかで新渡戸稲造の『武士道』に出合う。「武士道は儒教、仏教、神道を組み合わせた教えであり、それが現代の日本社会にも受け継がれているのだとわかった」とトッテン社長はいう。
トッテン社長のいまでも変わらぬ信条は「実践しなければ学んだことは生かされない」ということ。営業経験がないまま72年にアシストを日本で創業してからというもの、その武士道の実践は未知の市場を切り開く武器になった。民が安心して幸せに暮らせる世の中を築くよう武士が腐心してきたのと同じく、顧客の仕事や生活に役立つ製品やサービスを真摯に提供することで、よりよい社会を築くように努力を払ってきたのだ。