武士道というと、多くの人が新渡戸が1897年に英語で著した『武士道』を思い浮かべるようである。しかし、実際の武士によって自分たちの生き様、進むべき道が著されたものは、宮本武蔵の『五輪書』、柳生宗矩の『兵法家伝書』、山鹿素行の『山鹿語類』などほかにも数多く存在する。そのなかでも「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」との一文で知られるのが『葉隠』であり、かの三島由紀夫が若い頃からその教えに傾倒したことでも有名だ。

<strong>野間口 有●産業技術総合研究所理事長<br></strong>1940年生まれ。65年京都大学大学院理学研究科修士課程を修了後、三菱電機に入社。材料デバイス研究所長、中央研究所長、情報システム研究所長、インフォメーションシステム事業推進本部長などを経て、2002年に社長、06年に会長に就任する。09年4月から現職を務める。
野間口 有●産業技術総合研究所理事長
1940年生まれ。65年京都大学大学院理学研究科修士課程を修了後、三菱電機に入社。材料デバイス研究所長、中央研究所長、情報システム研究所長、インフォメーションシステム事業推進本部長などを経て、2002年に社長、06年に会長に就任する。09年4月から現職を務める。

『葉隠』は隠居した鍋島藩士の山本常朝の談話を後輩の田代陣基(つらもと)が編纂したもの。むやみに死を美化しているわけではなく、「常住死身になりて居る時は、武道に自由を得、一生越度なく、家職を仕果たすべきなり」という気構えを説いている。さらに「『武道の大意は何と御心得候や。』と問い懸けたる時、言下に答ふる人稀なり」と痛烈な批判を行い、自ら拠って立つべき哲学、規範を持つことの重要性をも訴えている。