安倍プレゼンを数値データで分析すると……
「最近の安倍晋三首相はなかなかプレゼン上手だ」という声をよく聞きます。
実際、2013年9月のオリンピック招致プレゼンと以前のプレゼンは「大変違う」のです。では、具体的にどこがどのように変わったのでしょう?
表情筋の動きやアイコンタクトの長さを0.5秒単位で計測し、統合して演説の訴求力を分析する私の「ASコーディングシート」を使って、06年の第1次安倍内閣時から現在までを、3つの時期に分けて分析してみました。
この分析では、言語的表現のほかに、日本人の多くがその有効性にあまり気づいていない「非言語表現」にも焦点を当てているのが特徴です。この「非言語表現」の中でもまばたきや腕の振り(アームムーブメント)のように回数でカウントできるものを「マクロ・エクスプレッション」、表情筋の微細な動きや「微表情」と呼ばれる瞬間的変化の時間を計測するものを「ミクロ・エクスプレッション」と呼びます。
まずは、第1次安倍内閣時の所信表明演説(06年9月29日)を見てみましょう。グラフをご覧ください。演説の長さは違いますが、数値はすべてオリンピック招致プレゼンに合わせてあります。所信表明のときは、演説に勢いを与える腕の振りは0回。聴衆へのアイコンタクトも224秒中62秒間(28%)でした。
日本人の二者間の会話中の平均的アイコンタクト時間が60秒あたり32秒(53%)であることを考えても、安倍首相のアイコンタクトは平均の半分ほどしかなかったのです。当然、聴衆へのインパクトが弱くなります。
話の内容は別として、第1次安倍プレゼン表現のスタイルは、お世辞にも上手でなかったことがわかるでしょう。
続いて、13年の第2次安倍内閣の所信表明演説(就任は12年12月26日)です。第1次から6年半の時を経て、安倍プレゼンは着々と変化しています。
腕も少しずつ動き始めました。アイコンタクトの秒数、目のまわりの眼輪筋、口のまわりの口輪筋の動きともにはっきりと向上しました。それによって、プレゼンに迫力とリズミカルな動きが出たのです。まばたき回数が多いのはよくないことですが、これについては横ばい状態でした。
このように、第2次安倍内閣以降の安倍プレゼンは「非言語表現」において大きな変貌を遂げています。そして、これこそがプレゼンのパワーアップの大きな要因でもあるのです。