安倍首相は、国民がなんとなく「また途中で投げ出すんじゃないの?」と不安に思っていることを察知していました。そこで、「私は、かつて病のために職を辞し、大きな政治的挫折を経験した人間です。国家の舵取りをつかさどる重責を改めてお引き受けするからには、過去の反省を教訓として心に刻み、丁寧な対話を心掛けながら、真摯に国政運営に当たっていくことを誓います」とスタートしています。

まるでスポーツ選手の宣誓の言葉のようにリズムがよく、わかりやすい言葉でした。しかも、この正直さが人々にうけたのです。

聞き手は3年半の民主党政権のやり方に辟易した国民です。「新しい首相の声(考え)を聞きたい」という期待がとても大きかったのです。

そこで、千両役者のようにリズミカルに、かつ国民の期待を受けての対話をしているかのように、自然に話しました。そして、国家の憂いある状況を、1「日本経済の危機」、2「東日本大震災からの復興の危機」、3「外交・安全保障の危機」、4「教育の危機」と、すべて「危機」という言葉で、体言止めにして表しています。「危機」を強調すればするほど、「待ってました!ここで日本を助けてください!」という国民の思いは強くなります。第1次内閣時の、抽象的な「美しい国」というような表現ではなく、「危機からの脱出」「日本の復活」という、誰もがわかりやすいメッセージを安倍首相は展開したのです。

そして、「おわりに」のところで「強い日本」を強調し、「『強い日本』を創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」と国民に呼びかけました。

これは、ジョン・F・ケネディの「Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country」にそっくりです。

いつも国民の主体性を大事にして、国民との「対話スタイル」を取りたいという首相の姿勢を、そのまま示した形です。これが、聞き手が「そうだ、そうだ」とうなずいたり、話の内容を身近に感じられるというしくみです。