苦手を克服していたら「目玉商品」は見つからなかった
――とはいえ、漫画家の世界でも、会社員の世界でも、良いアウトプットを「出し続ける」のはまた難しいように思います。かっぴーさんは漫画家として、自分の才能や「面白い」の感覚を不安に思う瞬間はなかったんでしょうか?
ないかもしれない。面白さに関してはないと思います。実際、『フェイスブックポリス』の後も『左ききのエレン』をはじめ、作品をどんどんネットで公開し、その都度たしかな反響を得られたことで、「自分の面白さ」をより強く信じられるようになりましたから。
だから「なんでこんなに売れねぇんだ」といつも憤っているというか。この面白さなら、もっと売れるはずだろうと。それほど自分の感覚は疑っていません。
――そこまで確信が持てるのは、おそらく常にフルスイングしているからですよね。妥協してものづくりをするのではなく、100%を出し続ける。
もちろん、漫画家の仕事はそういうものですから。表現には明確なKPI(数値などの指標)がないんですよ。ギャグ漫画なら寝る前に思い出してクスッと笑えるほどのレベルを狙いたいし、お仕事漫画なら「これを読んで転職しました」って言われるくらいのストーリーをつくりたい。
誰もがそこを目指し、100%の力を出しています。
――少し話は戻るのですが、なぜそれが会社員時代にできなかったのでしょう?
今振り返ると、会社員の仕事に向いていなかったのかもしれませんね。お恥ずかしい話ですが、遅刻しない、スケジュールを守るといった、誰もが当たり前にできることが、少なくとも当時の自分には難しかった。漫画家になって幾分かマシになりましたが……。
――ただ、誰もが当たり前にできることができない部分を、ある種克服しようとしていないというか、それでもいいんじゃないかぐらいのスタンスも感じるのですが。
それはそうですね。僕は遅刻しているとき「小走り」になりこそすれ、「大走り」はしませんから(笑)。時間に間に合うのが一番偉いのに。
でも、苦手を克服することにリソースを割いていたら、永遠に「目玉商品」を見つけられなかった気がして。
――「目玉商品」とは?
先ほどお伝えした成功体験と近いのかもしれませんが、自分にとっての実績や強みですね。
余談ですが、代理店のクリエイターって私服の人が多いんですよ。そして、僕の印象ではエースクリエイターになればなるほど服装がラフになり、短パンやビーチサンダルも増えてくる。だから新人は「あの人はなぜ職場で短パンをはけているんだろう?」と思うわけです(笑)。
その理由は「目玉商品」があるから。会社員の世界でも、漫画家の世界でも、結果を出している人というか「目玉商品がある人」ってひとつの失敗だけで評価されにくいじゃないですか。あの人には代えがたい価値があるから、と。もちろん、それに甘えるのは良くないのですが。
僕はそんなふうに、多少のミスがあっても目をつぶってもらえるほどの目玉商品を、どこかで見つけなければいけない、と思っていたのかもしれません。
結果を出すのに「才能」なんて必要ない?
――でも、漫画家の世界はかっぴーさん以外にも、目玉商品を持った人たちが山のように存在しますよね。その中で自分の価値をどう周囲に証明し続けていこうと考えておられますか?
それはもう自分の「面白い」を信じるしかないですよね。前編でお伝えしたように、キャリア戦略上は自分のポジショニングを冷静に考えることも必要。でも、最終的に大事なのは自分のスキルや経験、センスを「信じ切る」ことだと思います。
僕は今、そこに対する不安はありません。面白いという確信はある。だからこそ、会社員時代より今のほうが楽なんです。
もちろん、漫画家の世界は訓練したり資格を取ったりすることに直接的な意味はありません。すべての意味はないし、逆にすべてが生かされる世界とも言える。
だからこそ今は、結果を出したりキャリアを築いたりする上では、才能の有無よりも「自分の強みが生きる場所で試行回数を重ねられるか」の方が重要なのかもしれない、と思っています。必要なのは、自分の実力やセンスを信じ、常に全力で目の前のことと向き合う姿勢だと。
漫画家の世界に飛び込んだかっぴーさんが手にしたのは、新しいスキルではなく「自分がいいと思ったものは、やっぱりいい」という確信でした。そしてその確信は、自分が全力で向き合ったものを世に出し、他者に認めてもらうという「答え合わせ」から生まれていました。
まずは、どれだけアウトプットを出せるか。次いで、自分の評価と、他者からの評価。その両方が噛み合う一打を、どれだけ多く放てるか。
会社員の仕事でも、そこは変わらないのかもしれません。
取材・編集:はてな編集部 撮影:是枝右恭 制作:マイナビ転職
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



