ブランド価値が失墜した企業の末路
この対立は社内にとどまらず、株主総会でのプロキシーファイト(委任状争奪戦)へと発展。父と娘が互いにメディアへ露出し、相手の経営手腕を非難し合う泥仕合が連日のようにニュースで報じられた。
この過激なお家騒動がもたらした代償は、あまりに甚大であった。「家族の骨肉の争い」というネガティブなイメージは、同社が長年かけて築き上げた「質の高い高級家具店」という最大のブランド価値を一瞬にして失墜させた。顧客離れと社員の動揺に歯止めがかからなくなり、業績は深刻な赤字に陥る。
久美子氏側が勝利して勝久氏が去った後も顧客の信頼は戻らず、最終的に大塚家具は自力再建を断念。2019年にヤマダホールディングスの傘下に入り、2021年には上場廃止となった。そして2022年5月1日、子会社のヤマダデンキへ吸収合併されたことで、「株式会社大塚家具」という法人は半世紀以上の歴史に幕を閉じ、完全に消滅するに至った。現在はヤマダデンキのストアブランド(店舗名)として名残を留めるに過ぎない。
「家族だから」という甘えが命取り
なぜ同族経営で、大塚家具のような激しい対立が起きてしまうのか。それを理解するために欠かせないのが、ファミリービジネス研究における基本フレームワークである「スリーサークルモデル」だ。
同族企業は、以下の3つの領域(サークル)が複雑に重なり合って成り立っている。
2.オーナーシップ(所有・株式) :株主としての権利
3.ファミリー(家族・親族) :血縁関係、感情的なつながり
非同族企業であれば、「1.ビジネス」の論理(合理性や業績)だけで意思決定がなされる。しかし同族企業では、この3つの領域が不可分に重なり合っているため、境界線があいまいになる。
対立の多くは、この境界線の侵犯から生じる。
・ 「株主としての権利」を盾に、経営に関与していないにもかかわらず現場を批判する非経営親族
・ 「家族だから言わなくてもわかるはずだ」という甘え
「家族だから最後はまとまる」「親族だから理解し合える」という根拠のない過信こそが、事業承継期における最大の不発弾となる。経営論、所有権、感情論がごちゃ混ぜになったとき、企業は内側から崩壊していくのである。

