「完全手作りの模型」が契約獲得を引き寄せた

オーストラリア海軍関係者との面会を控えていた岩出1佐は、濱﨑2佐に連絡して追加で製作を依頼した。小さいモデルを手土産として渡すだけでなく、体積を8倍にした大型モデルをプレゼンの場に持っていくこともあった。

新型FFMはまだ実物がない。イメージが湧きづらい中で、濱﨑2佐がつくったプラモデルは相手の想像力を刺激した。岩出1佐は「百聞は一見に如かず。意思決定にどれだけ影響したのかわかりませんが、新型FFMの理解促進に貢献してくれたことはたしかです。公平性の確保上、意見交換は一般的な内容に終始させる必要がありましたが、だからこそ模型が彼らの視覚を刺激し、その役割を大いに果たしてくれたのだと実感しています」と証言する。

佐々木将補、岩出1佐が班長を務めた海上幕僚監部・艦船装備体系班が保管する「新型FFM」の大型模型
撮影=プレジデントオンライン編集部
佐々木将補、岩出1佐が班長を務めた海上幕僚監部・艦船装備体系班が保管する「新型FFM」の大型模型

もちろん手土産としても喜ばれた。新型FFMのプラモデルは日本仕様が基本だったが、ここぞという相手にはオーストラリア海軍のカラーリングを施し、同海軍の識別マークである「赤いカンガルー」をつけた。濱﨑2佐の芸の細かさに、思わず顔をほころばせた関係者もいた。

オーストラリア政府が新型FFMを選定したことを発表したのは2025年8月。終盤はロビー活動に熱心だったドイツ有利という見方が広がっていたが、最後は自分たちの強みを真摯に訴えた日本に軍配が上がった。「そうりゅう」型の売り込み失敗から9年越しのリベンジ成功である。

「今も勝利した実感はありません」

現地サプライチェーンへの根回しやメディアも巻き込んだ広報、そして関係者の心をとらえた手作りの模型など、さまざまな活動が実を結んだ形だが、佐々木海将補は「環境が味方してくれた面もある。それを忘れてはいけない」と気を引き締める。

2025年2月には中国人民解放軍海軍のフリゲート、ミサイル巡洋艦、補給艦がシドニー沖を航行したとオーストラリア国防省が発表した。太平洋海域における軍事的緊張の高まりが、納期に厳格で、防衛戦略上でも緊密な関係にある日本の追い風になった可能性はたしかにある。

ただ、やるべきことをやっていたから風を逃さずに捉えられたとも言える。日本の防衛装備移転の勝ち筋は見えたのか。あらためて問うと、佐々木海将補はこう話してくれた。

「今回はオーストラリア側からの打診で始まった案件でしたが、今後は日本から相手国にセールスする機会もあるのでしょう。その場合も、まずその国が欲しいものを日本が満たせるかどうかを第一に考えないといけません。そこを確かめないまま今回と同じことをやっても、足元をすくわれる可能性は高い」

もっと景気のいい話が聞けるのかと思いきや、佐々木海将補はどこまでも慎重だった。「そもそも納品はまだ先で、今も勝利した実感はありません。赤いカンガルーがついた新型FFMが長崎(三菱重工長崎造船所)でオーストラリア海軍に引き渡されるまで、たぶんホッとできないでしょう」

この責任感こそが、日本が相手国からの信頼を勝ち取る最大の武器なのかもしれない。

夕焼けに染まる海上自衛隊横須賀基地
撮影=プレジデントオンライン編集部
夕焼けに染まる海上自衛隊横須賀基地

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
差別はなかった、でもモバイルバッテリーは7回盗まれた…日本人義勇兵が見た「プーチンの軍隊の実情」
地方衰退の一番の原因は「人口減少」ではない…山口の超富裕層が「住民税43億円」をまるっと抱えて移住した理由
大地震でまず確保すべきは水でも食料でもない…被災者が「これだけは担いで逃げて」という最も重要なモノ2選【2025年7月BEST】
異民族に3000人の皇族が連れ去られ、収容所送りに…「戦利品」になった女性皇族たちがたどった悲惨な結末
「日本円の紙くず化」へのカウントダウンが始まった…高市首相が狙う「借金1342兆円を帳消しにする」禁断の処方箋【2026年5月BEST】