「敵をつくらない」と決めた情報戦

「そうりゅう」型の失注で得た教訓は佐々木海将補にも引き継がれた。新型FFM移転プロジェクトの制服組リーダーになると、「これは情報戦」と位置づけて、情報収集と分析のオペレーションを開始した。

情報を重視したのは、敵味方が複雑に入り乱れているからだ。護衛艦の建造は、1社がすべてを担えるものではない。たとえば船体はドイツ、戦闘システムはアメリカ、レーダーはオーストラリア、ミサイルはまた別のアメリカのメーカー、魚雷はヨーロッパ――というように、1隻に多くのメーカーが関わることが普通だ。

こうした企業のなかには、競合国――今回でいえばドイツ、韓国、スペイン――と結びつきの強いところもあれば、基本は中立的ながら、日本が受注したら自分たちのビジネスがなくなるのではないかと心配するところもある。まずはその複雑な構図を読み解く必要があったのだ。

「オーストラリアにはすでにサプライチェーンがあって、そこにいきなり日本が入ると反発を招くおそれがあります。意識したのは、敵をつくらないこと。各メーカーとは私たちもコネクションがあるので、『日本が受注したら、みなさんの仕事がなくなるどころか儲かりますよ』と説明して回りました」(佐々木海将補)

佐々木透吏海将補
撮影=プレジデントオンライン編集部
防衛装備庁でプロジェクト管理総括官(海上担当)を務める佐々木透吏海将補。「新型FFM」オーストラリア移転のプロジェクトチームを防衛省の海上自衛官側(制服組)で率いた。

「ベッドが小さい」独メディアの難癖報道

情報活動の結果、オーストラリアの防衛産業やそこに装備を納めるサプライヤーの警戒感は薄れていった。その甲斐あって、24年12月の段階で候補は日本とドイツの2カ国に絞られた。

しかし、そこから先の情報戦も熾烈だった。ロビー活動に長けたドイツ側は、メディアを巻き込んで新型FFMのネガティブキャンペーンを展開したのだ。日本の護衛艦は日本人の体格に合わせて設計されているので、ベッドが小さく居住性が悪いという記事も出た。

居住性はいいことに越したことはないが、ベッドの大きさをことさらに強調するのは難癖に近い。それでも捨て置くことはできず、日本側もメディアやシンクタンクに情報提供。

情報戦で大車輪の活躍をしたのが、岩出洋平1等海佐だ。新型FFMをオーストラリアに売り込むにあたり、かつて佐々木海将補が務めたのと同じ海上幕僚監部・艦船装備体系班長のポストに就いていた。2025年3月、その岩出1佐はオーストラリアのパースに飛んだ。護衛艦「のしろ」(「もがみ」型護衛艦3番艦)がオーストラリアとの共同訓練に参加し、その途中でパースの基地に寄港するからだ。

「次期汎用フリゲートプログラムの関係者が見学にくれば、説明する絶好の機会になります。誰が来るのかわからずに空振りに終わる可能性はありましたが、自分にできることは全部やろうと」(岩出1佐)