感謝の気持ちを表すための手土産

海上自衛隊は外国の軍隊との交流が多く、幹部自衛官はそれなりに英語を話せる。岩出1佐もそうだったが、プロジェクトチームにアサインされると、毎朝4時半に起きて出勤までの間、英会話の練習をした。プレゼンや交渉の場では通訳がつくこともあるが、自分の言葉で伝えたほうが刺さると考えたからだ。

岩出1佐がオーストラリア側との接点でよく引き合いに出した話がある。日本の新幹線だ。

「オーストラリア側がとくに気にしていたのはスケジュールでした。自分たちの欲しいタイミングで本当にデリバリーされるのかと、繰り返し聞かれました。私が納期を約束することはできませんが、代わりに『日本の新幹線は30秒遅れただけで乗客に謝罪する。そういう国民性だ』と伝えました。オーストラリアは平気で電車が30分遅れるお国柄ですから『クレイジーだ』と驚いていましたが、日本企業が納期を重視していることは伝わったのではないかと思います」

オーストラリア側にセールス活動する中で、ライバル国との違いを感じる場面もあった。海外では政策決定に関わる政治家や官僚へのロビー活動は普通に行われているが、日本側、とくに公務員である海上自衛隊にはロビー活動する発想もなく、予算も極めて限定的だ。そんな中でどのようにして相手への心遣いを示すのか、そこにも「佐々木海将補流」の工夫があった。

象徴的なのは手土産だろう。国と国との関係にとどまらず、個人の関係でも、友人の家を訪ねる時は手土産を持っていくのが心遣いというものだが、佐々木海将補はいつでも、誰に対してもそういう心遣いを忘れない人だ。例えば、日本側がオーストラリア側の関係者を訪問する際には儀礼として何か小さなプレゼントを渡すのが通例になっているが佐々木海将補は「羽田空港第3ターミナルのドン・キホーテで毎回、日本らしいお菓子を買っていた」という。ロビー活動という発想も予算も無かったが、こういうちょっとした心遣いがオーストラリア人の心を掴んだのかもしれない。

同期から届いた自作の「新型FFM」

交際費などがない中でどのように交流を深めるか。世界の海軍には軍人同士の交流でチャレンジコインと呼ばれるメダルや、部隊の帽子を贈り合うカルチャーがある。ただ、毎回同じでは印象に残らない。悩んでいた岩出1佐の頭にふと思い浮かんだのは、防衛大学校からともに海上自衛隊の道を歩んできた同期、濱﨑禎史よしふみ2等海佐の顔だった。

「私が艦船装備体系班長に着任したとき、濱﨑から着任祝いで宅急便が届いたんです。開けてみると、新型FFMの自作プラモデル。そのときはよくできていると思っただけでしたが、約1年後に移転プロジェクトにアサインされたとき、『あのプラモデルは贈り物にぴったりだ』となりました」

濱﨑2佐がイチから作成した「新型FFM」の模型
撮影=プレジデントオンライン編集部
濱﨑2佐が3Dプリンターで作成した「新型FFM」の模型

そもそも濱﨑2佐はなぜ新型FFMの自作プラモデルをつくったのか。実は濱﨑2佐は小学1年生のときの誕生日に戦艦大和のプラモデルを買ってもらって以来のモデラー。つくるのは船が多く、趣味が高じて防大に入ったほどだ。隊務をこなしながら休日には好きな艦艇をつくっていたが、3Dプリンターを買ってプラモデル愛が爆発した。濱﨑2佐はこう語る。

「3Dプリンターなら自分でゼロから模型をつくれます。ちょうどそのころ新型FFMのイメージイラストが公開されたので、それを基に完成形を想像して何隻もつくりました。20隻くらい試作して自信作ができたタイミングで、岩出が艦船装備体系班長に着任したと聞いて1隻贈りました。名目は着任祝いですが、岩出から評価を聞きたかったのが本音です」

岩出洋平1等海佐(左)、濱﨑禎史2等海佐(右)
撮影=プレジデントオンライン編集部
艦船装備体系班長として「新型FFM」売り込みの最前線に立った岩出洋平1等海佐(左)と、防衛大学校からの同期で模型を製作した濱﨑禎史2等海佐(右)