“糖尿病は合併症が怖い”といわれている。「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」が三大合併症として有名だが、「脳梗塞」「心筋梗塞」といった大血管病も増加している。

それを知ってか知らずか、糖尿病患者と予備軍は増えており、2007年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病患者約890万人、予備軍約1320万人、合計2210万人。5人に1人の時代である。

自覚症状は進行しないと現れないので、気付いたときには進行しているケースが多い。また、早期に発見しても、症状がないために軽く考えて進行させてしまうケースもある。

糖尿病は血液中のブドウ糖の量が常に多い状態なので、合併症を引き起こさないためにはしっかりとした血糖コントロールが必要。しかし、それが難しいから失明したり、人工透析に至ったりするのである。

その難しい血糖コントロールに新しい治療薬が昨年末、日本に登場し、注目を集めている。世界初のGLP-1受容体作動薬「エキセナチド(商品名:バイエッタ)」がそれである。

インクレチン関連薬で、これまでの薬とは作用がまったく異なっている。

食事をして小腸から糖が吸収されると、インクレチンというホルモンが分泌される。インクレチンは膵臓に働きかけて、必要なホルモンであるインスリンの分泌を促す。インスリンは血中のブドウ糖が筋肉や脂肪組織に取り込まれるように作用し、それにより血糖値は低下する。

糖尿病の人はインクレチンの働きが十分ではない。エキセナチドはGLP-1受容体作動薬ということでわかるように、インクレチンのひとつGLP-1と同じような作用をする。GLP-1は血糖を上げるグルカゴンというホルモンの分泌を抑え、また血糖値の高いときにのみインスリン分泌を促すという特徴がある。

それがエキセナチドの作用(1)「良質な血糖コントロール」に結びつく。国内で行われた臨床試験においては、エキセナチド投与群とプラセボ(偽薬)群との24週での比較を行った。エキセナチド群の投与前のヘモグロビンA1C値(最近1、2カ月の血糖の状態を知ることができる血液検査)は平均8.2、プラセボ群は平均8.1。それが24週後にはマイナス1.62とマイナス0.28。エキセナチド投与群は有意にヘモグロビンA1C値の低下を認めた。さらに、52週後もその効果は安定的に維持されたのである。

良質なコントロールは(2)「空腹時および食後の血糖値の上昇も確実に抑制」した。加えて、血糖値の高いときにのみインスリン分泌を促す特徴があるので(3)「低血糖を起こすリスクが少ない」。

そして、これまでの薬は長期に用量を多く服用すると、膵臓が疲れきってしまい、働きが低下したが、エキセナチドは逆に(4)「膵臓を保護する」という。

このほか、満腹中枢に作用して満腹感を高めるなどにより(5)「体重減少の効果」も期待できる。

注目される新しい薬であるからこそ、使い方を間違えてはいけない。インスリンがまったく出ない患者ではなく、ある程度インスリンが出ている患者が対象となる。他の糖尿病治療の中のインスリンの分泌を促す薬のひとつである「スルホニル尿素薬」との併用が可能で、スルホニル尿素薬を減らすことも可能。糖尿病の専門医と十分に話し合って、使用を決めるべきである。

【生活習慣のワンポイント】

糖尿病は自覚症状がなく、気付いたときには進行しているので、定期健診は最も大事。空腹時血糖値とヘモグロビンA1Cを必ずチェックし、予備軍に入りそうになったら、その時点から「食事療法」「運動療法」「禁煙」「適量飲酒」「十分な睡眠」「上手なストレス解消」に取り組もう。しっかり行うことで、生涯糖尿病を患わず予備軍までに抑えることはできる。