生活習慣病は数あるけれど、最も患者数が多いのは「高血圧」。国内患者数4000万人とされているので、3人寄れば1人が高血圧ということである。これといった症状がないので、“たかが高血圧”と放置している人が多い。すると、何の前触れもなく、あるとき突然「脳卒中」や「心筋梗塞」などを引き起こすため、音もなく忍び寄る殺し屋“サイレント・キラー”と呼ばれている。

高血圧患者の多くが訴えるのは睡眠の悩み。何と患者の約50%にものぼるという。“高血圧の陰に睡眠不足あり”で、睡眠不足が高血圧を引き起こしたり、悪化させたりしているケースは多いと指摘されている。

事実、アメリカ・シカゴ大学の研究グループが、睡眠不足の中高年は高血圧のリスクが高くなることを発表している。

調査対象は33歳から45歳までの578人。2000年と01年、その5年後の05年と06年に、3日間連続で血圧測定を行った。睡眠時間が5時間と6時間のグループを比較してみると、5時間のグループは高血圧になった割合が37%高かった。このように、5年間ずっと睡眠時間が少なかったグループは、高血圧になった割合が高かったという。また、“睡眠の質の低下がより高血圧のリスクを高める”ことも指摘された。

では、睡眠不足がなぜ高血圧を引き起こしてしまうのだろうか……そのメカニズムは次のように考えられている。

睡眠不足と高血圧。この2つを結びつけているのが自律神経。自律神経には交感神経と副交感神経があり、人間が活動しているときは交感神経が優位になっていて、リラックス時や就寝中は副交感神経が優位となっている。だから、日中は血圧が高くなり、就寝中や安静時は血圧が低下する。

ところが、睡眠時間が少ないと、夜でも交感神経が優位になるため、高血圧に結びついてしまう。

高血圧は動脈硬化の大きなリスク要因。血管は内側から「内膜」「中膜」「外膜」の三層構造となっているが、高血圧はその内膜を作っている内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を生み出し促進する。

それとともに、睡眠不足が動脈硬化に直接関与もする。内皮細胞からは血管の弾力性を保つ物質が分泌されているが、これが睡眠不足で減少し、動脈硬化へと結びついていくのである。

このように“たかが睡眠不足”が、高血圧、動脈硬化、そして、心筋梗塞、脳卒中と、厳しい病気を突然に発症させてしまう。

質の良い睡眠ができないと、知らず知らずのうちに高血圧、動脈硬化を招くので、もしも今あなたが高血圧で、降圧薬を服用していても血圧が下がらないようであれば、睡眠障害が陰にかくれている可能性が高い。不眠が不眠を呼ぶ悪循環もあるので、不眠があれば医師に相談し、きちんと対処すべきである。生活指導だけでは改善しないときは、睡眠導入薬や精神安定薬が処方される。

日中に強い眠気がある場合には、睡眠障害の中でも睡眠時無呼吸症候群が考えられる。睡眠時無呼吸症候群とは、7時間の睡眠中に10秒以上の無呼吸状態が30回以上(1時間に5回以上)あるものをいう。高血圧の人の10%に、この疾患があるという指摘もある。

さらに、睡眠不足は高血圧、動脈硬化ばかりではなく、生活習慣病の代表疾患「糖尿病」の95%を占める「2型糖尿病」にも大きく関係している。

糖尿病は血糖(血液中のブドウ糖のこと)が過剰になる病気で、高血糖状態が続くと多くの合併症を引き起こす。正常な状態では、膵臓から分泌されるインスリンが血糖を上手にコントロールしているが、睡眠不足がその効き目を低下させ、結果、糖尿病に――。やはり、質の良い睡眠を得るには、早期に医師に相談すべきである。