“キラー・ファイバー”“静かな時限爆弾”と呼ばれ、人々から恐れられているのが「アスベスト」。アスベストを吸入するとアスベスト肺、アスベスト肺がん、悪性中皮腫など死に至る危険性のある病気に結びついてしまうからである。発症までには潜伏期間があり、短い人で約10年、長い人では30年以上。まさに“静かな時限爆弾”なのである。

そのアスベストとは石綿のこと。天然の鉱物繊維で極めて細かい。かつて理科の実験で用いられていた金網の中央の白い部分にアスベストが使われていた。

アスベストが原因で発症する悪性中皮腫は、がんの一種である。「悪性胸膜中皮腫」は、肺の周囲を覆っている胸膜という薄い膜にできるがんで、セロファンのように薄い膜が数ミリにも厚くなる。胸膜がぶ厚くなると肺を圧迫し始めるので、「胸の痛み」「息切れ」「発熱」などの症状が出て、呼吸は進行とともに厳しくなる。

悪性胸膜中皮腫は、タイプ、病期によって対応が大きく異なる。

タイプは「上皮性」と「非上皮性(肉腫)」に分けられる。上皮性とは空気に接する組織(粘膜上皮)にできるがん。一方、非上皮性の肉腫は、筋肉や骨などの空気に触れないところにできるがんのことである。

病期分類は米国国立がん研究所(NCI)では以下のように決めている。

●病期I 壁側胸膜内に限局、つまり、片側に限局している悪性胸膜中皮腫。
 ●病期II 病期Iに胸膜内のリンパ節転移が加わったケース。
 ●病期III リンパ節転移などに関係なく、胸膜、縦隔、心臓、横隔膜、腹膜を貫いている悪性胸膜中皮腫。
 ●病期IV 遠隔転移のある悪性胸膜中皮腫。

さらに、病期Iを「限局型」とし、病期II、III、IVを「進展型」と2つに分類している。

治療は他のがんと同じで手術、化学療法、放射線療法とあるものの、限局型でなければ手術を行うことは難しく、生存率は厳しい状況にある。限局型で上皮性であれば、手術成績は2年生存率68%、5年生存率46%と報告されている。いわゆる早期では、治る可能性がかなり高いといえよう。

手術が適用されない進展型では、化学療法、放射線療法が行われる。ところが、これらにはいまだに標準的治療はない。ただ、化学療法には注目される薬が登場している。ペメトレキセド(商品名:アリムタ)がそれである。

承認に結びついた最終臨床試験は、20カ国448人の患者を対象に行われた。肺がんによく使われる抗がん剤のシスプラチン単独と、シスプラチンとペメトレキセドの二剤併用のグループで比較検討。すると、生存率では単独群が9.3カ月、1年生存率が38.0%に対し、二剤併用群は12.1カ月、1年生存率が50.3%と、二剤併用群がきわめて良い結果となった。

良くなったという奏功率では、単独群と二剤併用群の差はもっと広がる。単独群が17%に対し、二剤併用群は41%である。

高く評価される抗がん剤ペメトレキセドではあるが、やはり副作用の強さは例外ではない。ペメトレキセドの副作用で注意しなければならないのは、リンパ球が減少する、ヘモグロビンが減少するといった「骨髄抑制」が最も大きい。治療はこれに注意しながら進めていくことになる。

【生活習慣のワンポイント】

アスベストを吸入しないのが最大のポイント。アスベストを吸入する可能性のある職業には、造船業、建設業、断熱業、発電所・変電所、自動車整備工、鉄道修理、電気製品製造、歯科技工士など多くあがる。今回の東日本大震災でも、瓦礫を撤去する際に、アスベストが舞っているところがあると指摘されているので、徹底した安全対策で臨んでほしい。