「心房細動」をご存じだろうか。心臓の拍動に乱れが生じる「不整脈」のひとつ。不整脈には脈が遅くなる「徐脈性不整脈」と、脈が速くなる「頻脈性不整脈」がある。心房細動は後者のひとつで、心拍が不規則に速くなり、脈が乱れ、1分間に150~250前後になり、強い動悸を感じる。
不整脈の多くは別段心配はないが、心房細動は「脳卒中」や「心不全」を起こす危険性がある。
日本での三大死亡原因のひとつである脳卒中の75.4%を占めている「脳梗塞」。これには脳の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」、動脈硬化で狭くなった脳動脈に血栓が詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」、心臓にできた大きな血栓が脳に流れて太い血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」がある。現在、それぞれ脳梗塞の30%程度を占めているが、とりわけ心原性脳塞栓症が年々増加している。
心原性脳塞栓症を発症した患者の約70%は心房細動が原因といわれている。今、この心房細動の患者が83万人にまで増えており、1980年代の2倍以上になっている。
心房細動から心原性脳塞栓症を起こすと、心原性脳塞栓症は他の2つと異なり、血栓が大きく太い脳動脈を詰まらせるので、脳梗塞がより重症になる。
それだからこそ、心房細動のある人には心原性脳塞栓症の予防、「抗凝固療法」が欠かせない。
抗凝固療法とは血液を固まりにくくする「ワルファリン」を服用して血栓ができるのを防ぐ治療。ワルファリンは最も有効な薬として半世紀もの間、第一選択薬として使われてきた。
そんな中、循環器内科医、神経内科医、脳神経外科医が“ワルファリンに代わって新時代をつくる薬”と、その有効性を高く評価する抗凝固薬ダビガトラン(商品名・プラザキサ)がこの3月から登場した。
ワルファリンとの比較を行った臨床試験「心房細動患者におけるダビガトランとワルファリンの比較」の結果が有効性をはっきり示した。
臨床試験の対象としたのは「脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動患者1万8113人(日本人326人を含む)」で、「ダビガトラン150ミリグラム1日2回投与群」「ダビガトラン110ミリグラム1日2回投与群」「ワルファリン1日1回投与群」の3つのグループに無作為に分けて、2年間投与した。
結果、脳卒中および全身性塞栓症の発症率では、ダビガトラン150ミリグラム群はワルファリン群より35%も低下させた。ダビガトラン110ミリグラム群もワルファリン群と同等に低下させた。
また、頭蓋内出血の発現率でもダビガトラン150ミリグラム群はワルファリン群より59%も低下させ、ダビガトラン110ミリグラム群にいたっては70%も低下させたのである。
ダビガトランはワルファリン以上に“有効”にして“安全”――。専門医たちがダビガトランを高く評価する理由は、それに加えて、ワルファリンの数倍も使いやすいからである。そのポイントは以下の4点。
(1)血液検査で薬の効果を確認しながら使う必要がない。
(2)食事制限が不要(納豆、青汁、緑黄色野菜や海藻類など、ビタミンKを含有する食物の摂取制限がない)。
(3)組み合わせの悪い薬がほとんどない。
(4)服用して効果が出るまでの時間が短く、薬の服用をやめると効果の切れるのが速い。
このようにダビガトランはワルファリンに比べて使い勝手が良いので、循環器内科を専門としないクリニックでの処方も増えると思われる。
使いやすいとはいえダビガトランは処方薬。使用できない患者もいる。「透析患者を含む高度の腎障害のある患者」「イトラコナゾール(内臓真菌症および皮膚真菌症等に用いる薬)を服用中の患者」「出血症状のある患者」など。医師から十分な説明を受け、納得、理解してダビガトランを服用すべきである。