富山県、福井県、神奈川県などで多くの食中毒患者、死亡者を出した焼き肉チェーン店事件。生肉のユッケに含まれていたとみられる腸管出血性大腸菌O111とO157が原因である。
O111、O157ともに、もともと牛など家畜の腸管に存在し、皮膚などにも付いているため、食肉処理をする際に菌が肉に移る。それでも、厚労省の生食できる肉の衛生基準を満たせば「生食用」と表示して販売が認められている。が、実際にはここ数年「生食用」として認められた肉は馬肉以外にはないのが現状である。そのため、馬肉以外の生食は、店側とお客との信頼関係によるものといえる。
今回の事件の原因はユッケだったが、そのほかにも牛レバ刺し、焼き方が不十分な焼き肉、菌の付いた手や調理器具を介して菌が移った生野菜などからの感染もある。50~100個という少ない菌量で感染は成立する。菌量が多いと1~2日で発症するが、一般的な潜伏期間は2~8日である。
この腸管出血性大腸菌が怖いのは「シガ毒素(ベロ毒素)」と呼ばれる毒素を作るからである。シガ毒素は血管にくっついて血管や細胞を壊す。
症状は37度台の発熱、激しい腹痛と水溶性の下痢。下痢は血便となって鮮血のように出る場合もある。また、2~7%の人が、2週間以内に急性腎炎や血小板の減少、貧血などの症状を引き起こす「溶血性尿毒症症候群(HUS)」という合併症を起こしたり、「脳症」を起こしたりする。HUS発症後の致死率は1~5%とされている。
とりわけ抵抗力の弱い10歳未満の子どもや70歳以上の高齢者に重症者の多い傾向があるので、十分な注意が必要である。
O111、O157は少ない菌量でも感染し、重症化しやすいが、その仲間のO26は意外に軽い腹痛と下痢で済んでしまうことがある。そのようなときには、人は「ちょっと体調を崩したかな」程度で放置しがちである。
しかし、その下痢の中には大腸で増殖したO26がしっかり排泄されている。たとえば、3、4歳の子どもがトイレに行ったとき、手にO26が付着したとする。その子が保育園で他の園児とペタペタ触れ合いながら遊ぶと、他の子の顔や体にO26が移ってしまう。そして、最終的に口からO26が侵入して感染してしまう。一人で何人にも感染させ、感染した子の症状も軽いと、さらに別の子へとどんどん感染は拡大していく。
このほか、この時季はとりわさ、鶏刺しといった鶏肉が原因となりやすいカンピロバクターによる食中毒が多い。500~800個の少ない菌量でも感染することがある。もちろん、牛や豚などの家畜も保菌している。
感染後、2~7日で下痢、腹痛、発熱、悪寒、倦怠感などの症状が起きる。そして、感染が引き金となって急に手足に力が入らなくなり、しびれたような状態になる疾患「ギラン・バレー症候群」という末梢神経障害が起きることもある。諸外国のデータでは年間10万人に1~2人の割合。子どものみならず成人も発症し、イギリスの報告では発症1年後時点で約40%の患者に後遺症が残り、そのなかの約10%が死亡しているという。
食中毒も通年性になってきているので、十分な対応が必要である。
【生活習慣のワンポイント】
食中毒予防の鉄則は次の7カ条。
(1)生肉は食べない。
(2)焼き肉はトングを使い、直箸をしない。
(3)ひき肉を使うハンバーグなどは加熱を十分に行う。
(4)生肉に添えた野菜も加熱する。
(5)肉の加熱は75度以上で1分間以上。
(6)肉と野菜はまな板や庖丁を別にするか、その都度アルコール消毒と熱湯消毒を行う。
(7)手洗いの徹底。