大腸がんの死亡者数は2009年に4万2407人で、がん死亡者数の第3位。治療の基本は手術だが、大腸がんが粘膜にとどまり、直径が2センチ以下の「0期」、早期がんであれば開腹することなく「内視鏡治療」が行われる。内視鏡治療ができない段階になると「腹腔鏡手術」。さらに進行すると「開腹手術」となる。
手術でがんが取り切れなかったり、がんが再発してしまったりした場合は抗がん剤による「化学療法」が行われる。
抗がん剤の基本的な組み合わせは「5-FU(一般名フルオロウラシル)」「アイソボリン(一般名レボホリナートカルシウム)」「カンプト、トポテシン(一般名イリノテカン)」、または、イリノテカンの代わりに「エルプラット(一般名オキサリプラチン)」。
これらは同じような作用を持っており、副作用も似ている。骨髄細胞を殺してしまうので骨髄細胞が減少して感染症を起こしやすくなってしまう。だから、抗がん剤をどんどん併用すると副作用も強くなる。かといって用量を減らしては有効性が期待できなくなる。有効性と安全性を考慮しながら組み合わせが行われているのである。
そして近年、前述の3剤の組み合わせに加える薬が登場し、有効性を高めている。「分子標的薬」である。これはがん細胞を選択的に、そして効率よく攻撃するので正常細胞を傷つけることが少ない。
今、日本では「アバスチン(一般名ベバシズマブ)」「ベクティビックス(一般名パニツムマブ)」「アービタックス(一般名セツキシマブ)」が健康保険の適用となっている。
これまで大腸がんの化学療法では、分子標的薬は二番手、三番手として使われていたが、昨年3月からアービタックスが第一治療薬として使えるようになり、注目を集めている。
アービタックスは、大きく2つの働きを持ってがん細胞を攻撃する。(1)EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を働かなくする!
がん細胞の表面にはEGFRというタンパク質がついており、それが活性化するとがん細胞は増殖する。がん細胞を増殖させないためにはEGFRを活性化させなければよい。アービタックスはEGFRに結合して活性化させないように働く。そのため、アービタックスにブロックされたがん細胞は増殖できずに寿命がくると死滅してしまう。(2)がん細胞に目印をつける!
生体内の免疫細胞であるNK(ナチュラルキラー)細胞ががん細胞を認識できるように、簡単にいえばがん細胞に目印となる旗を立てる。それを目当てにNK細胞ががん細胞を攻撃するのである。
また、アービタックスはEGFRを活性化させるKRAS(ケーラス)遺伝子が変異していない人に効果のあることがわかっている。そのため、アービタックスを使う前にがん細胞を採取して変異の有無をチェックする。こうすることで、事前にアービタックスが有効か無効かがわかり、無駄な治療がなくなるのである。
アービタックスが第一治療薬になったのは、以下の臨床試験などが評価を受けたからである。
転移性大腸がん患者のうち、KRAS遺伝子に変異のない患者1063人を2つのグループに分け、第一グループは「フルオロウラシル、ホリナートカルシウム(もしくはレボホリナートカルシウム)、イリノテカン」を併用、第二グループはその併用にアービタックスを加えた。第一グループの奏功率は39.7%、がんが悪化しなかった期間は8.4カ月、全生存期間は20カ月。一方、第二グループのそれは57.3%、9.9カ月、23.5カ月と、大きな有効性を示したのである。
ただし、アービタックスにも副作用はある。EGFRは皮膚の体幹部や顔面の細胞にもあるため、ここにニキビ様の皮疹ができる。これは肌を保湿したり、清潔に保ったりすることで十分にコントロールできるという。