映画で描かれた「人身売買の実態」
限りなくノンフィクションに近いとされ、中国で上映禁止となった映画に『盲山』(Blind Mountain)がある。2007年に中国で制作されたが、何度も検閲が入って多くのシーンがカットされた挙句、中国では上映できなかった。日本では2025年7月に1週間だけの限定で公開されたが、ロングランヒットとなり上映期間が延長されたという異例の作品だ。
私はこの映画を観て、あまりの痛ましさとリアリティに胸が苦しくなり、中国の人身売買の実態は日本人の想像をはるかに超えるものだと実感した。日本人なら「必死になれば逃げられるのでは……」「交番に駆け込めば……」と考えるが、それは無理なのだ。
同映画では、就職に困っていたある女子大生が業者に「いい仕事がある」とたぶらかされ、農村に連れていかれるところから始まる。そこで飲み物に混ぜた睡眠薬を飲まされて、身分証や携帯電話、現金をすべて奪われ、気がついたときには業者は姿を消しており、ある農家の女性に「あなたを買った。あなたは今日からうちの嫁になった。私たちはあなたのために大金を支払ったのだ」と言い渡される。
交番も郵便局もグルだった
女子大生は何度も逃げようと試みるが、村中の人々がグルになっていて、村の出口には監視がいるので、早朝でも深夜でも逃げ出すことができない。交番の人もグルで村役場の人に訴えても取り合ってくれない。女子大生は郵便配達員に、実家に送る手紙を託そうとするが、郵便配達員もグルなので、その手紙は握りつぶされ、手紙を出すこともできない。次第に、女性は村で見かける若い女性は全員、誘拐されてこの村に連行された女性であることを知る――というストーリーだ。
なぜ、このような誘拐や人身売買が横行するのか。背景にあるのは中国の一人っ子政策の影響や都市と農村の格差の問題だ。
中国では1979年末から人口抑制のための一人っ子政策が開始された。農村も例外ではなかったが、農村では働き手が必要で、かつ家を継ぐ男児が女児よりも求められた。もし女児が産まれたら、こっそり殺められることもあった。
その結果、農村には男性しかいない、といういびつな形になった。中国国家統計局の2025年の調査によると、人口14億545万人のうち、男性は7億1722万人(51.03%)、女性は6億8823万人(48.97%)で、男女比は女性100に対し、男性は104.21だった。農村では、男性余りの傾向はより顕著であると想像できる。

