乗客は「襲撃だ」と身構えた
列車が大きく揺れ、うたた寝をしていた女性の頭に、箱が落ちる。はっと目を開けると、車内の誰もが叫びながら立ち上がっていた。
2025年8月26日。女性を乗せた列車は、ナイジェリアの首都アブジャから北部の都市カドゥナへ向かっていた。郊外のクブワ駅を出てまもなく、アシャム駅の付近で列車は脱線し、先頭の車両が横転した。4両目にいたジョナサン・ポガ氏は、ナイジェリア全国紙のデイリー・トラストに、「出発して15分ほどで、ひどい音がして、次の瞬間、車両が横倒しになった」と語る。
脱線した列車は、周りに人家もない場所で立ち往生した。乗客の多くは襲撃だと思い、身構える。乗客の一人から電話を受けたサミュエル・アルワン氏が、同じく全国紙のディス・デイ紙への寄稿で緊迫の瞬間を振り返った。
幸い、襲撃ではなかった。乗っていた618人に死者は出ず、21人が負傷したと、全国紙のリーダーシップ紙は伝える。デイリー・トラストによると、ナイジェリア鉄道公社のカヨデ・オペイファ社長は会見で、整備不良との臆測を退けた。
だが翌月、ナイジェリア安全調査局(NSIB)の予備報告書は、社長の説明と食い違う事実を指摘する。以前、同じアシャム駅で起きた脱線で傷んだ枕木の一部を、公社は応急の補修で済ませていたというのだ。
幹線道路を行けば、誘拐されるかもしれない。そう怯える人々にとって、中国からの融資で建設され、2016年に開業したこの鉄道は、頼みの綱となった。だが、いまは運行本数が減り、資金は乏しく、部品も機関車も足りない。
中国の融資で開業した看板路線
乗客の多くが襲撃だと思ったのも、無理はない。期待を集めて開業したこの鉄道では、以前にも列車が武装集団に襲われ、死者が出ている。
2016年7月に開業したアブジャ―カドゥナ鉄道は、全長約187キロ。東京から静岡までとほぼ同じ距離だ。建設を請け負ったのは中国の国有企業、中国土木工程集団(CCECC)で、機関車も中国のメーカーが納入した。契約額8億7600万ドル(約1380億円)のうち、5億ドル(約790億円)を中国からの融資が占める。
道路を避けたい市民に支持され、鉄道の利用者は増え続けた。ナイジェリアの日刊紙ガーディアンによると、この鉄道は一時、両都市を結ぶ「最も好まれ、信頼される交通手段」になったという。
だが2022年3月28日の夜、カドゥナ行きの列車で爆発が起きる。終点まで、あと25分ほどだった。車内の明かりが消え、2度目の爆発で列車は脱線。線路を爆破した武装集団が車両を取り囲み、銃撃を始めた。生存者のムサ・バシル・ウスマン氏は米CNNに、「そこらじゅうで銃声がして、窓越しに撃ってきた」と語っている。
鉄道公社は翌日、この路線の運行を止めた。CNNによると、ロティミ・アマエチ運輸相(当時)は、壊れた線路を直したうえで、空軍が上空から警備する態勢で再開すると述べた。ガーディアン紙によると、この襲撃で約9人が死亡し、62人が拉致された。運休は結局8カ月に及び、その間に鉄道公社が失った収入は、約66億ナイラ(当時のレートで約20億円)にのぼる。

