脳は「変わることができる器官」

脳には「可塑性」と呼ばれる性質があります。これは経験や刺激によって神経回路が変化し、新しく作り替えられていく能力のことです。つまり、脳は「変わることができる器官」なのです。

さらに、驚くべきことに、老化によって機能が低下した脳であっても、その働きを再び活性化できることがわかってきています。

日本にある理化学研究所の研究では、加齢によって活動が低下していた神経幹細胞が、特定の遺伝子の働きを調整することで再び活性化し、新しい神経細胞を生み出すことが確認されました。

この研究では、認知機能が低下していた高齢のマウスに対して処置を行ったところ、その後3カ月以上にわたって新しい神経細胞が作られ続け、記憶能力が明らかに改善されたのです。

ここからわかるのは、加齢による記憶力の低下は「脳細胞が失われた結果」ではなく、「脳が十分に使われていない状態」である可能性が高いこと。

言い換えれば、脳は衰えているのではなく、「眠っている」だけかもしれないのです。

歩くだけで海馬に「若返り」に近い変化

では、その眠っている脳をどうやって目覚めさせるのか。その答えの1つが、「歩くこと」でしょう。ピッツバーグ大学の研究では、55歳〜80歳の男女を対象に、週3回40分のウォーキングを1年間継続したグループと、ストレッチのみを行ったグループを比較しました。

その結果、ウォーキングを行ったグループでは、記憶を司る「海馬」の体積が2%以上増加したのです。海馬については、後述します。

これは、非常に大きな意味を持つ結果だと言えるでしょう。なぜなら、加齢によって海馬は通常、年に1%〜2%ずつ縮小していくとされているからです。それが拡大したということは、単なる維持ではなく、「若返り」に近い変化が起きたことを意味します。

散歩を楽しむ3人
写真=iStock.com/Image Source
※写真はイメージです

つまり、歩くことで記憶に関わる脳の中心部が実際に成長する可能性があるということ。

さらに、記憶力の改善は高齢者でも確認されました。カナダにあるモントリオール大学の研究では、平均年齢72歳の高齢者に対して、週120分の認知トレーニングを8週間行ったところ、記憶テストのスコアが35%〜40%も向上しました。

注目すべきなのは、この変化が一時的なものではなく、日常生活にも影響を与えていた点です。参加者は、新しく出会った人の名前を覚えられるようになったり、買い物のリストを暗記できるようになったりと、実用的なレベルで記憶力の向上を実感していました。

また、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏の研究では、日常的にウォーキングを行っている人は、認知症の発症リスクが約40%低下することも報告されています。これは単に「病気になりにくい」というだけでなく、「脳の機能が長く維持される」ことを意味しています。

ここまでで紹介した研究から、記憶力は年齢によって決まるものではなく、使い方によって変わるものであることがわかるのではないでしょうか。