見えないコストとの闘い
例えば、ある企業で生体認証を全PCに導入することを考えてみよう。情シスはできるだけわかりやすい導入マニュアルを作りたいし、動画での説明やコールセンターに十分な人数を確保したい、と考える。
しかし、経営はそうした見えるコストをできるだけ削減するように要求することがある。情シスとユーザーの間にも専門知識の差はあるが、情シスと経営の知識差はより大きな問題で、説明してもわかってもらえない場合もある。
十分なコストをかけられなければ、わかりにくいマニュアルと、電話してもつながらないコールセンターが立ち上がるだけだ。
その結果、ユーザーのストレスは増え、ユーザーの対応時間は伸びていく、ここが見えないコストだ。
ユーザーがどうやればいいかわからず試行錯誤を繰り替えす時間とストレス、わからないからコールセンターに電話してもつながらない、何十分も待たされる、という時間とストレス、これが何百人、何千人になっても、それは人件費の中に紛れ込み、コストとしては顕在化しない。
これが見えないコストとの闘いだ。
ANAシステム移行で考えたこと
社内のユーザーのストレスや拘束時間の増加で済めばまだいいが、一般ユーザーを相手にしたビジネスでは、一般ユーザーのストレスや拘束時間の増加で発生する「見えないコスト」の影響は大きい。
最近の例では、ANAの国内線予約システムの刷新があげられる。
ANAは自社開発の国内線予約システムを世界の主要航空会社が広く採用している共同利用型のクラウドシステムであるアマデウスに切り替えることを2023年に発表し、3年以上の準備期間を経て2026年5月からシステムの切り替えを行った。
ところが、オンラインチェックインなどの不具合や手続きの混乱が生じ、ニュースにもなった。
6月になってANAは公式サイトに「お詫び」を掲載した。現在は内容が更新されているため、当時の文章が引用されている記事をリンクする。
このお詫びで注目すべきなのは、システムが動かなかったことに対するお詫びではないことだ。
システムは一応稼働しているわけで、お詫びされているのは、「動作に時間がかかっていること」「問い合わせ窓口もつながりにくく、メールの返信に時間を要している」ことについてだ。
予約がまったくできなくなるといった重大なシステム障害が起きていたわけではないことが推察できる。
つまり、この混乱を招いたのは、ユーザーにとっての不便さという「見えないコスト」の発生なのだ。

