冷戦に「安定」をもたらしたヘルシンキ宣言

ここで改めてヘルシンキ宣言について説明しておこう。ヘルシンキ宣言は、戦後の国境線と勢力圏の固定化を米国および西欧諸国に認めさせたいソ連および東欧諸国と、人権・自由・人的交流を東側に認めさせたい西側のせめぎ合いの上で成立した。

ここで重要なのが、第1バスケットと称される安全保障についての合意で、そこで国境の不可侵や武力による威嚇・行使の禁止が合意された。つまり、その時点でのヨーロッパの国境線を「現状」として認めただけでなく、それを変更するために武力を用いないことで合意したのである。

チェコ共和国
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ヘルシンキ合意それ自体は拘束力のある条約ではなく、あくまで政治的な宣言だが、それでもこうした原則で合意できたことは大きい。

これを振り返って台湾を巡る状況と比較すると、「現状は何か」の合意が存在していないことの意味がより明確に理解できる。そもそも中国は台湾を国家として認めていないので「国境の不可侵」についての合意が成立するはずはないし、武力行使の可能性を中国は排除していない。

中台間で「安全保障のジレンマ」は生じにくい

一方で、中国と台湾の間には国力に大きな差があり、また両者の戦略目標も非対称であるため、台湾海峡において「安全保障のジレンマ」が生じる可能性は低い。この点は重要である。

安全保障のジレンマが生じにくいのであれば、台湾やその支援国による抑止力の強化それ自体が、相手側の不安を過度に刺激し、戦争を誘発する可能性は限定的だと考えられるからである。

もちろん、戦争を防ぐためには軍事力と外交を組み合わせる必要がある。しかし、「現状とは何か」について中国と台湾、あるいは関係国の間で十分な合意が存在していない以上、現状変更を物理的に阻止しうる軍事的抑止力の構築を、より重視する必要がある。