「首にかけていたタオルで首を絞めちゃった」
「それで……。それで、首にかけていたタオルを手にして、首を絞めちゃった」
健二郎は能面のような表情のまま言った。夫婦の絆が惨劇に変わる瞬間だった。
――首を絞めたとき、奥様は?
「布団で、仰向けで寝たままぜんぜん動かない」
――そのタオルは……。
「いつも仕事場で使ってる、汗拭き用のタオルです」
――使い慣れたタオルで。
「タオルでもね、旅館で配られるような、あれ。生地の薄いやつね。よく旅行へ行きましたから、そういうタオルがいっぱいあり普段使いしていたんです」
――奥様の顔を見て首を絞めようと思ったのか、それとも階段を上っているときから「殺してやる」と考えていたのか。
「いや、無意識。殺そうなんて考えてない」
――それは1回目、夜8時の時点でもですか?
「なかった」
――どうタオルを首にかけて絞めたんですか? そのときの状況は。
「女房が仰向けで寝ているでしょう。私は枕元に座り、手で女房の首と頭を持ち上げ、下からタオルを入れて首に一巻きして、交差したタオルの左右の端と端を持って、ギュッと」
妻は身動きひとつしなかった
――頭を持ったときの奥様の反応は。
「全然ない」
――では、首を絞めたときは。
「苦しむような表情をすることはなかった。いまでも不思議に思うんだけど、首を絞めても、もがきもしない。両手を胸の上で拝むように合わせたまま、身動きひとつしなかった。首を絞める直前に女房と目があった。瞳孔が開いてました。白目がなく黒目だけで、目がぜんぶ真っ黒。何も言いません。お互いに」
――健二郎さんの心中は?
「もう死んじゃってるんだなって」
――絞める前に?
「そう。こういう死に方ってあるのかなって。うちの女房の兄が田舎にいるんだけど、その兄から聞いたおふくろさんをみとったときの状況と似てましたね。だから、親子で同じような死に方をするのかなと」
――足をばたつかせるとかも。
「ない。静かでしたよ」
――奥様もそれを望んでいるようだった。
「かもしれないね。そう思う。不思議ですよ。少しでも抵抗すれば、また違ってたんだろうと思うんだけど。抵抗は一切なかった」

