「怒ったのは1回きり」その日が最後に

――怒りのような感情も湧かなかった。

「ないです。それが湧いたのはいちばん最後だけ。(犯行時の)夜8時、私はちょうど風呂から出たところでした。臭いで勘づき2階の寝室へ続く階段を上がりました。見れば、オムツのなかにしたウンチをね、オムツを外して手でかき回した後でした。かき回して四方八方に散らばしていました。おそらく、さらに病気が進行していたのでしょう。トイレ代わりのようにタオルを重ねてすることすらもなかったのです。

『何でやったんだ!』。あまりの惨状に、なぜかこのときだけは声を荒げていました。初めてのことでした。けれど、反応がないから、怒ったのは1回きり。女房は、布団に寝たままきょとんとするだけで、何をしたのかもわかってない様子でした。

実は、前にも何回か同様のことがありました。そのたびに私が『こういうことしちゃいけないんだよ』と優しく諭すと、女房は『私のこと嫌いになったんでしょう。邪魔なら殺しなさいよ』と。そう言われても、もちろんこれまでは相手にしていませんでした」

1階の座椅子で就寝したが、再び2階へ

夫婦の寝室を排泄物まみれにされたことでついに逆上した健二郎は、「これじゃあ寝られない」と思い、1階の居間の座椅子を布団代わりにして、窮屈な体勢で一旦は床についた。寝室の惨状はそのまま、この出来事を忘れるように。明日も仕事だ。寝ないと仕事にならない。

和室に敷かれた布団
写真=iStock.com/ES3N
※写真はイメージです

「でも、10時半ごろ、すぐに目が覚めちゃって。やっぱり布団じゃなきゃ熟睡できないと思って2階に上がったんだけど、臭いが強烈でね。ほら、女房は認知症の薬を飲んでるでしょう。そのせいもあってね」

問題は、寝室の畳の上に広範囲に散らばる排泄物群である。タオルをトイレ代わりにしていたならいざ知らず、さすがに畳の取り替えが必要になるほどまでの惨状になると、簡単に清掃が終わるとは思えない。悪臭は、もう階段を上る途中から漂ってきた。

いつしか居間の椅子にかけてあるタオルを手にしていた。その刹那、健二郎は自分でも思ってもみない行動に出る。