落差に悶々としても、自然と折り合いがつく
事実、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」(2019年)のデータを見ても、70歳の就業者の約6割が「現在の仕事に満足している」と回答しています。当時の70歳といえば、プライドが高く、激しい競争を生きてきた「団塊世代」です。彼ら・彼女らの多くが定年後に現業職(小さな仕事)へ移行したと推測される年齢であることを考えると、この数字は驚異的と言わざるを得ません。
もちろん、最初から涼しい顔で割り切れる人ばかりではありません。
“なぜ自分が、こんな簡単な(と思えてしまう)仕事をしなければならないのか”と、過去の栄光と現在の落差に悶々とし、アイデンティティーの危機に陥る人も大勢いるでしょう。
しかし、日々現場で働くうちに自然と心に折り合いがついていき、気づけば意外なほど前向きになっているといいます。仕事が物足りないというシニアもいますが、結果的にストレスの少ない今の仕事に納得感を抱き、満足して働くというわけです。
ある日突然、神の啓示のようにマインドセットが変わるわけではありません。徐々に等身大の自分を受け入れていく。そして、ストレスの少ない仕事や周囲に感謝される喜びに慣れていく。
これこそが、日本のシニアたちが泥臭くも美しく達成している、“定年後の幸福論”の実態なのです。
「プライド」「過去の栄光」が未来を狭める
当然ながら、なかには定年後の「小さな仕事」に不満を持ち、仕事が続かない人もいます。そうした人たちには、明確な共通点があるようです。
それは、現役時代の肩書や働き方にしがみつき、プライドを捨て切れない人。あるいは、現役時代と同じ待遇を求め続けてしまう人です。
特に、「大企業のホワイトカラー職」へのこだわりが強い人は、今後さらに厳しい現実に直面することになります。なぜなら、現在の日本企業はAI(人工知能)の急速な普及や、組織のスリム化に伴うポスト縮小の嵐に晒されているからです。かつての「机に座って指示を出す仕事」は、もはやシニアの市場にはあまり残されていません。
一方で、深刻な人手不足に悩む日本では、介護・物流・小売り・観光といった「地域のエッセンシャルワーカー」の需要が、爆発的に高まっています。雇用情勢に詳しい専門家も、「仕事の中身」にさえこだわらなければ、シニアが活躍できる場はむしろ右肩上がりに増えていると指摘します。労働力の希少価値が上がることで、最低賃金も上昇傾向にあり、働く環境自体はけっして悪くありません。
しかし、ここで一つの大きな疑問が浮かび上がります。
「シニアは、ただ働ければ、それで幸せなのだろうか?」という問題です。

