解釈を変えるだけで、身体まで変わる

ここからは、健康と気分に大きく関わる「運動」と「睡眠」を取り上げます。

先に結論を言えば、どちらも「同じことをしていても、どう解釈するか」で、結果が大きく変わります。

運動がストレス解消になり、気分を改善することは、経験的に知られています。

これは科学的にも検証されており、運動はストレス反応の調整に関わり、嫌なことを繰り返し思い返す「反芻」の時間を減らすことにも役立ちます。ここまでは、なんとなく違和感なく想像できることでしょう。

ところが興味深いのは、同じように身体を動かしていても、「これは良い運動だ」と解釈しているかどうかで、身体の変化まで違ってくる可能性があるということです。

清潔なタオルを持って来る若いホテルのメイド
写真=iStock.com/DeanDrobot
ゲストのためのホテルの部屋のハウスキーピング準備ベッド

これを実証した有名な研究があります。

対象は、ホテルで働く84名の清掃員でした。客室清掃は、ベッドメイキング、掃除機がけ、浴室清掃など、一日中身体を動かす仕事です。しかし多くの清掃員は、それを「労働」だと認識し、「運動」だとは思っていませんでした。

研究者たちは清掃員を2つに分け、一方には「あなた方の仕事は、健康的な運動量を十分に満たすエクササイズです」と伝え、もう一方には何も伝えませんでした。

4週間後、興味深い結果が出ました。申告された労働量や生活習慣はほとんど変わっていないのに、前者のグループでは体重、血圧、体脂肪率、BMI、ウエストヒップ比といった指標が、統計的に有意に改善していたのです。

後者のグループには、その変化は見られませんでした。

変わったのは、「これは運動だ」という解釈です。

客室清掃という同じ行動に、「単なる労働」ではなく「身体にとって意味のある運動」という新しい意味づけが重なった。その結果、測定された健康指標にまで変化が見られました。

寝覚めの瞬間の解釈で一日の気分が決まる

日常でいえば、駅の階段を上がるとき、「しんどい移動」と思うか、「今日の運動タイム」と思うか。書類を取りに行くとき、「面倒な雑用」と思うか、「こまめに動けて、いい機会だ」と思うか。同じ行動でも、解釈を少し変えるだけで、身体への影響は変わりうるのです。

私たちは、寝覚めの瞬間に「よく寝た」と感じるか「全然寝た気がしない」と感じるかで、その日一日の気分が決まってしまうことがあります。この感覚は、実際の睡眠時間の長さと必ずしも一致しません。

もちろん、激しいいびきや日中の強い眠気が続く場合は、睡眠時無呼吸症候群などの可能性もあるので、病院で相談してください。ここで紹介するのは、健康な人を対象にした研究です。

「睡眠の主観的な評価」が、実際の認知パフォーマンスに影響するかどうかを実験した研究があります(※1)。参加者に「心拍や脳波から睡眠の質を推定できる新しい技術がある」と説明し、それらしい機器を装着してもらいました。

そのうえで、実際の睡眠の質とは無関係に、一方には「あなたは昨晩、平均以上に質の高い睡眠が取れていました」と告げ、もう一方には「平均以下の、質の悪い睡眠でした」と告げました。

その後の認知機能テストでは、「よく眠れた」と告げられた群の注意や情報処理の成績が、実際の睡眠とは関係なく、告げられた内容に沿うように有意に高くなりました。一方、「眠れていない」と告げられた群は、成績が落ちました。

※1 Draganich, C., & Erdal, K. (2014). Placebo sleep affects cognitive functioning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 40(3), 857-864.