寝具を整える、寝る前に軽くストレッチも有効
両群の睡眠そのものは変わっていません。違ったのは、「自分は昨晩よく眠れた」、あるいは「眠れなかった」という解釈だけです。
もっとも、この実験が確かめたのは認知課題の成績であって、実際に極端な短時間睡眠だった場合の影響まで測ったわけではありません。それでも、睡眠を主観的にどう評価するかが、その日のコンディションに影響しうることは、おさえておいてよいと思います。
繰り返しますが、睡眠そのものは極めて大事で、「解釈しだいでどうにでもなる」という話ではありません。長期的に睡眠を削れば、身体も心も確実に蝕まれます。
しかし日常レベルでいえば、短時間睡眠だった朝に、「とはいえ、深く眠れた感覚はある」と解釈する余地を残すことは、その日のパフォーマンスと気分を左右します。
なお、寝具を整える、寝る前に軽くストレッチをするといった工夫は、睡眠時間を延ばさなくても、「自分は睡眠の質を大切にしている」と納得しやすくなりますし、気分の悪化を防いでくれます。
認知的再評価は「ポジティブ思考」ではない
運動と睡眠の例が示すのは、同じ行動や同じ身体の状態でも、それをどう解釈するかによって、身体や気分の反応は変わりうる、ということです。
ただ、ここで再び強調しておきます。これは「前向きな考えを持とう」「常にポジティブシンキングを心がけよう」という話ではありません。嫌っている人のことを「実はいい人かもしれない」と頭の中で100回唱えても、自分のなかの評価は、簡単には変わりません。
認知的再評価とは、現実を無理やり明るく塗り替えることではありません。過剰にネガティブになった解釈を、もう少し無理のない、現実的な位置へ戻す作業です。
運動を「良い運動だ」と解釈することも、睡眠を「質は悪くなかった」と解釈することも、それが事実である範囲で、悲観的に傾きすぎた見方をニュートラルに戻しているだけです。
そして、深いスキーマまで書き換えていくには、頭の中の問い直しだけでなく、現実の体験が力になります。
苦手な相手に一度だけ「おはよう」と声をかけてみる。すると、「どうせ無視される」と思っていたのに、普通に挨拶が返ってくるかもしれません。そのとき生まれる「あれ、思っていたのと違う」という小さな予測誤差が、古いスキーマを少しずつゆるめていきます。
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