即全滅ではないから見えにくい危機
仮に病害虫が侵入しても、すぐ日本中のジャガイモが全滅するわけではありません。
感染に強い「抵抗性品種のジャガイモ」を使う、他の作物を植えて害虫の密度を下げる「輪作」、害虫を化学的に退治する「土壌消毒」、感染地域から土や機械を別の場所に移さない「移動制限」などの対策手段もあります。
しかし、それでもジャガイモシストセンチュウが一度定着してしまえば、根絶は極めて困難です。問題は短期的なジャガイモの全滅ではなく、国内生産そのものを不安定にしてしまうことにあります。
実際にジャガイモシストセンチュウが確認された地域では、上に述べた対策に加えて、なす科植物の作付け禁止、土の付いた植物の地下部などの移動制限、必要に応じた廃棄、農機具の洗浄といった対策が行われています。防除は、農家だけでは完結しません。地域、行政、流通まで含めた長い長い取り組みになります。
「国産の肉じゃがが食べられなくなる」というのは、単純に明日から国産ジャガイモが消えるという意味ではありません。国産を選び続けられること、安定した価格で食卓に届くこと、産地が翌年以降も作り続けられること――その現代の当たり前が揺らぐ危険を指しています。
JA北海道中央会は「容認できない」
特に日本におけるジャガイモ生産は北海道への集中度が高く、2024年産では全国収穫量約229万5000トンのうち北海道が約187万トンと8割以上を占めている状況です。こうした基幹産地で作付けの制約や減収リスクが広がれば、青果用だけでなく、ポテトチップス、コロッケ、でん粉、種イモまで影響が及びかねません。
JA北海道中央会はアメリカ産生食用ジャガイモの輸入解禁に関して「主産地で、全国に種ばれいしょを供給する役割も果たす北海道の生産基盤をリスクにさらし、現場の意欲を著しく低下させる可能性がある。到底、容認できない」と述べています。
現在の輸入禁止には、植物防疫だけでなく、国内産地を経済的に守る側面もあります。米国業界は市場開放による数億ドル規模の追加輸出を期待する一方、日本の生産者は輸入品との競争による価格低下や作付意欲の減退を警戒しています。特に北海道では、ジャガイモは輪作や地域雇用を支える基幹作物です。そのため、もしも輸入解禁となれば、経済的な打撃が大きくなります。
また、国内の生産基盤を弱め、食料自給率を低下させることにもなります。例えば、2024年産の国産ジャガイモ(229.5万t)を基準にして、シストセンチュウが作付面積の30%へ広がると、発生圃場で平均9%減収し、全国で約20.7万tの減収。また高密度で作付面積の50%に及べば、発生圃場で平均30%減収し、全国で約68.9万tも減収する恐れがあります。なお、防除費は30%蔓延時で最大300億円程度、50%蔓延時で600億程度かかる計算です(※2)。アメリカでも、この膨大な防除費が問題となっています。
※2 防除費は、捕獲作物1回で約39万円/ha、D-D剤2回と捕獲作物を組み合わせる2~3年の集中防除で約142万~150万円/haという計算になる。
農林水産省「ばれいしょをめぐる状況について」
農林水産省「ジャガイモシロシストセンチュウに関する病害虫リスクアナリシス報告書」
北日本病害虫研究会報「ジャガイモシストセンチュウ発生圃場における有機リン系殺線虫剤の線虫密度抑制およびバレイショの減収回避効果」2017巻 68号
農研機構「ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除対策技術」
以上の資料をもとに筆者が試算して作成

