いい医師ダメな医師をどう見分ければいいのか。先日、京大医学部付属病院で正常な脳細胞を摘出するという重大な医療事故が起きた。医師の筒井冨美さんは「名門の大学病院だから100%安心できるということはない。診察時の様子をしっかり見極めることが必要だ」という――。

脳腫瘍と思い込んで正常組織を摘出

日本を代表する名門の医学部附属病院で耳を疑いたくなるような事故が起きた。

京都大学医学部附属病院は8月7日、「40代のベテラン脳外科医師が7月下旬の脳腫瘍の約10時間に及ぶ手術で正常部位を誤って摘出」という医療ミスを公表した。


テレ朝NEWS「ベテラン医師執刀も“慢心”か 患者は自ら呼吸できず…京大病院『想定外の医療事故』
京都大学医学部附属病院「脳腫瘍摘出術中の誤認による摘出部位誤り事例について

京都大学医学部付属病院
京都大学医学部付属病院(写真=mariemon/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

患者は50代女性で、術前は「めまいを訴えつつも通常の生活を送っていた」が、手術で脳幹部を損傷した結果、自力で呼吸のできない重篤な状態になったという。

記者会見では、「手術は脳の深部にある3cmの良性腫瘍の摘出を目的として行われた。術中には摘出対象の組織について2度の迅速病理診断が行われたが、腫瘍ではない可能性を示す結果が出たにもかかわらず、執刀医は自らの経験や肉眼所見を優先し、摘出を継続した」と説明された。

術後のMRI検査では、「本来摘出すべき腫瘍が残存している一方、呼吸など生命維持に関わる脳幹を含む正常組織の損傷」が判明しているという。朝日新聞(8月7日付)によれば、女性は人工呼吸器を装着され、呼びかけに目の開閉で反応しているという。「患者様の治療に最善を尽くす」と病院長と脳外科教授は記者会見で謝罪してはいるものの、脳幹部を損傷した場合の予後は医学的にも倫理的にも極めて厳しい。

※朝日新聞「京大病院で医療事故 脳腫瘍の手術で正常部位摘出、自発呼吸不能に

効かなかった迅速病理診断というブレーキ

手術中に確実に腫瘍を診断する方法として、「迅速病理診断」という検査がある。

手術中に組織の一部を採取して、病理検査室で凍結しスライスして顕微鏡で確認し、20〜30分程度で腫瘍か否かを診断して執刀医に連絡する方法である。大掛かりな設備と希少な病理専門医が必須なので、大学病院クラスの大病院でしか望めない検査手段でもある。

この報道を知った多くの医師が首を傾げたのは、この「迅速病理診断を2回も行って、否定的な検査結果にもかかわらず、手術を続行した」点である。

なぜ、そんな暴走をしたのか。

あくまでも一般論だが、日本の医療界には今なお「トップは外科、脳外科や心臓外科はその頂点、麻酔科や病理科は底辺」といった医師ヒエラルキーが一部に残っている。仮に今回、病理医からの苦言を脳外科医が聞き入れなかったとすると組織風土の弊害であるとも言える。

記者会見では「経験からくる慢心か」と質問された脳外科教授は、「だと思います」と答えている。

※京都大学医学部附属病院「脳腫瘍摘出術中の誤認による摘出部位誤り事例について