いい上司になるにはどうすればいいのか
私たちは成長の過程で多くの人から教育や指導を受けます。学生時代はもちろんのこと、社会に出てからも上司や先輩から学びを得て、自分の能力やスキルを伸ばしていくものです。それ自体は大変ありがたいことですし、教えを受けたことに感謝している人が多いでしょう。しかし成長を遂げて一人前になってからも、その相手が自分を支配し続けようとしたら、さすがに「ちょっと鬱陶しいな」と思うかもしれません。
世の中には自分が教えた生徒や弟子が自立することを許さず、いつまでも恩着せがましく教師面や先輩面をするタイプの人がいます。まさにそんな関係性を描いたのが、英国を代表する文学者、劇作家バーナード・ショーの『ピグマリオン』です。タイトルにピンとこなくても、オードリー・ヘップバーン主演の映画『マイ・フェア・レディ』の原作と聞けば、「あの話ね」と思い浮かぶ人もいるかもしれません。
ところが原作である本作と映画は、実は結末が大きく違っています。映画は主役2人が結ばれることを示唆するシーンで終わりますが、原作はそんなハッピーエンド仕立てではなく、ラストはかなりシニカルです。
そもそも本作は、ギリシャ神話に登場するキプロス王ピグマリオンの物語をモチーフとしています。彼は自らの手で創り出した女性の彫像ガラテアに恋をし、やがて生命を吹き込まれて人間となった彼女と結婚するのですが、バーナード・ショーは本作の後日譚で「彫像のガラテアがみずからの創造主であるピグマリオンを本当に好きになることは決してない」と綴っています。
ラストは異なるものの、ストーリーの大筋は原作も映画も同じです。強烈な訛りを持つ貧しい花売り娘のイライザが、言語学者のヒギンズから教育を受け、上流階級で通用する話し方を身につけていきます。ヒギンズ自身は上流階級の出身ながら、口の悪い傲慢な男で、初対面からイライザの話し方をこき下ろします。
「どうです、このドブ板に泥水を流したような英語の発音は、これじゃ一生貧民街から出ることはない。けど、わたしなら、三か月でこの子を大使館の園遊会でも公爵夫人として通用するようにして見せます」
こんな酷い物言いをされたにもかかわらず、イライザはもっと良い仕事に就くため、上品な話し方を習いたいと彼に頼みます。
学者としてめったに出合えない面白いチャンスだと思ったヒギンズは、研究仲間であるピカリング大佐から「この実験がうまくいかない方に賭ける」と言われたこともあり、この話に乗ることにします。発音練習を始めてみると、イライザはとても耳がよく、特訓を受けて話し方がみるみる上達します。ついには目標としていた大使館の園遊会に出席し、大使夫人からも絶賛されるほどのエレガントな言葉遣いを披露するまでに成長を遂げました。
相手を尊重すれば自尊心が育つ
しかしイライザが苦労して目標を達成したにもかかわらず、ヒギンズはいたわりの言葉は一切かけず、彼女に高圧的で粗野な態度をとり続けます。一方、ピカリング大佐の彼女への接し方は対照的でした。イライザは大佐と出会った頃のことを、こう振り返ります。
「私が初めてウィンポール・ストリートのお宅を訪ねた時に、あなたがミス・ドゥーリトルと呼んで下さったことです。あれで私は、初めて自尊心というものを知りました」
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