習近平が進める軍改革が逆効果に

装備調達の段階で汚職が起こり、検査段階で問題が見逃され、その結果が上層部への報告で修正される。これが積み重なれば、「書類上の戦力」と「実際に使える戦力」との間に大きな差が生まれる。

台湾侵攻のシミュレーションでミサイル1000発が使用可能になっていても、実際に何発が正常に発射できるのか。艦艇が増えていても、何隻が継続的な作戦に投入できるのか。こうした基礎情報が信用できなければ、精密な作戦計画を立てても意味はない。

習近平は軍改革を進め、従来の軍区を5つの戦区に再編し、ロケット軍を独立した軍種として強化した。目的は、陸海空軍などを統合して戦える近代的な軍隊をつくることだった。

ところが、その改革と同時並行で大規模な粛清が続いた。新しい指揮系統で要職に就いた将官が、経験を積む前に次々と失脚する。

軍隊の統合作戦能力を強化するには、改革と称して組織図を書き換えるだけでは不十分だ。指揮官同士が判断基準を共有し、部隊間の調整方法を学び、演習と検証を繰り返して初めて完成する。人事が頻繁に入れ替われば、そのノウハウは蓄積されない。

つまり、習は、人民解放軍を強くするために軍改革を進めながら、それを機能させる人的基盤を、自らの粛清によって壊しているのである。

忠誠競争という「組織を殺す病」

さらに深刻なのは、粛清によって軍内部の行動原理そのものが変わることである。

組織が正常に機能するためには、能力を示した者が評価され、問題を発見した者がそれを報告できなければならない。最高指導者にとって不都合な報告をした人物が失脚すると、組織全体が「悪い情報を報告することは危険である」と学習する。

すると、合理的な軍人ほど次のような行動をとる。

一つ目は、悪い情報を上げなくなることだ。装備の故障、訓練不足、作戦計画の欠陥を報告すれば、自分自身の管理責任を問われかねない。だったら、問題を小さく見せる方が安全である。

二つ目は、最高指導者が聞きたい情報を強調することである。「準備が遅れている」と報告するより、「計画通り進んでいる」と報告したほうが評価される。結果として、報告が上に行けば行くほど数字が良くされていく。

三つ目は、同僚やライバルの弱点を探すようになることである。自分が粛清されないためには、自分の忠誠を示すだけでなく、他人の忠誠心に疑問を投げかけることが有効になる。

こうなると、組織全体にとっては全員が正直に報告した方が合理的なのに、個々人にとっては真実を隠した方が合理的になる。組織の利益と個人の生存戦略が逆方向を向き始めるのである。