就職して最初にした意味不明な仕事
「明日は動きやすいように兵隊ズボンで来てくれ」
「わかりました。仕事は何をするのですか」
「来ればわかる。明日の朝8時だ」
そういうなり、西井はさっさとテントらしき囲いのなかに入ってしまった。これまでの人生で出会ったことのない得体の知れぬ男に面食らったが、当座の仕事にありつけたことに喜八郎は安堵した。
しかし、西井商事とは何をしている会社なのか。
翌日の朝8時に到着すると、案の定、意味不明な仕事が待っていた。
「そのリヤカーで、あたりに散らばっているレンガを集められるだけ集めてくれ」
「それで何をするんですか」
「そんなことは気にしなくていい。とにかく急いでくれ」
〈目的もわからぬ肉体作業ほど空しいものはないが、いまは稼ぐことが先決だ。初年兵時代の過酷さを思えば、レンガ集めなどなんということはない〉
それからひがな一日、喜八郎は焼け野原に散乱したレンガを拾い集め、リヤカーがいっぱいになるとテントへ運ぶ作業を繰り返した。喜八郎以外にも、同じようにレンガ集めをしている西井商事の社員たちが何人もいた。
敗戦直後に横行した土地の不法占拠
二〜三日もすると、山のようなレンガが集まった。
〈これだけの量のレンガがあれば、ビル一棟は建設できそうだな〉
そう思った瞬間、ハッとした。
〈西井はここに勝手にビルを建ててしまうつもりなのか〉
図星だった。
敗戦直後、空襲で土地登記の台帳が消失し、他人の土地を不法占拠する者たちが続出した。警察や裁判所などの行政機能全般が一時的にストップしたからである。
いまレンガを積んでいる土地の所有者が誰なのか、関係者全員が亡くなっているのか、喜八郎は知る由もなかったが、少なくとも、テントを張って囲っている土地がかつて、西井のものでなかったことはたしかだった。
ひときわ大きな声で、レンガ運びの社員たちに向かって西井が叫んだ。
「テントの周りにレンガを積め」

