糖尿病になったことを「職場では言えなかった」
都内のスーパーで店長を務めるアキモトさん(仮名・50代男性)は、この冬に2型糖尿病と診断された。
しかし、職場には伝えていなかった。
「自己管理ができない人間だと思われたくなかった」からだ。大学野球の有名選手だった彼の身長は190cm。100kg近いがっしりした体格だが決して肥満体ではない。日頃から従業員に対して健康の重要性を説いている手前、糖尿病はなってはならない病気だったのだ。
「運動中は水を飲まない」を常識として過ごしてきたため、連日の猛暑の中でも、店内外を行き来しながらほとんど水分を取っていなかった。
喉の渇きに気づきにくい“糖尿病特有の脱水”が静かに進行していた。
そんなある日の午後、アキモトさんは、いつものようにバックヤードから荷受け場へ向かう途中で、急に足がもつれるような感覚に襲われた。
視界が白く霞み、遠くで誰かが呼んでいる声が、まるで水の中から聞こえるようにぼやけていく。額からは滝のように汗が流れているのに、体の芯は熱を逃がせず、息苦しさが増していった。
低血糖と熱中症は「驚くほど似ている」
手は震え、胸がドキドキと早鐘を打つ。
「これは低血糖だ」と直感し、ポケットに入れていた飴を口に入れたが、まったく良くならない。むしろ、体の熱が内側にこもるような感覚が強まり、膝が抜けるように力が入らなくなった。
そのまましゃがみ込んだ瞬間、強い吐き気とめまいが一気に押し寄せ、立ち上がることができなくなった。
周囲の景色がゆっくり回転するように揺れ、次第に意識が遠のいていった。
低血糖になると、脳が使うエネルギーが不足するため、めまい、手の震え、発汗、意識のぼやけ、動悸といった症状が現れる。
これらは熱中症と驚くほど似ているのだが、糖尿病初心者のアキモトさんには当然のごとく区別できなかった。
救急搬送されたアキモトさんは、中等症の熱中症と診断された。
「自分がどれほど危険な状態だったか、医師の説明を聞いてぞっとした」と語る。

