今回の事案で浮かび上がったのは、個人の問題ではなく、職場の構造的な課題だ。
水分補給の時間が確保されていないこと。
高温環境での作業ローテーションが不十分であること。
糖尿病を“言いづらい病気”にしてしまう空気があること。
倒れた際に、低血糖か熱中症か判断できない体制であること。
「職場の理解がなければ、同じ事故は繰り返される」と坂本医師は警告する。
糖尿病以外にも「熱中症になりやすい持病」はある
働き盛りの40〜50代に多い疾患にも、熱中症のリスクを高めるものがある。
環境省の「熱中症環境保健マニュアル」や厚生労働省の職場向けガイドラインでも、暑さそのものだけでなく、年齢、暑熱順化の不足、作業負荷、服装、そして持病や障害の有無が熱中症リスクに影響するとされている。つまり、糖尿病だけが例外的に危険なのではなく、体温調節や水分・塩分の調整、血液循環にかかわる病気は、暑熱環境でリスクを押し上げる要因になり得る。
高血圧は血管の調整機能が低下し、体温調節が遅れるのだが、糖尿病以上に職場で“病気”として共有されにくい。患者数は多く、働き盛りにも珍しくないが、自覚症状が乏しく、薬で管理できていれば本人も「会社に言うほどではない」と考えやすいからだ。
職場側も、高血圧を熱中症リスクと結びつけて捉える機会は少ない。そのため、高温下での作業や脱水、降圧薬の影響といったリスクが見過ごされやすいのである。
また、狭心症などの心疾患は、体温調節のための血流調整がうまくできず、暑さと脱水が重なると危険域に入るのだが、やはり熱中症リスクにはあまり結び付いていない。
腎機能が低下している人も、水分調整が難しく、脱水と過剰水分の両方が危険だし、肥満者では皮下脂肪が断熱材となり、体温が下がりにくい。
いずれも、働き盛りの世代に珍しくない疾患である。事実、現役世代の健康状態をみると、糖尿病、高血圧、腎臓病、肥満といった生活習慣病は、まったく珍しいものではない。
さらに申し上げれば、先程の糖尿病治療薬のように、高血圧や心不全でも利尿薬が処方されている事が多いですので、この季節の脱水は要注意です。
厚生労働省の患者調査では、糖尿病の患者は552万人、高血圧は1,600万人を超え、慢性腎臓病も60万人以上にのぼるとされる。
これらは高齢者だけの病気と思われがちだが、実際には40〜50代の現役世代にも広く分布している。

