暑い日は、汗で水分と塩分が失われるだけでなく、食欲が落ちて食事量が減りやすい。そこに血糖値を下げる薬の作用や、荷運び・立ち仕事などによるエネルギー消費が重なると、血糖値が想定以上に下がることがある。低血糖が起きると、冷や汗、手の震え、動悸、めまい、意識のぼんやりするといった症状が現れるが、これらは熱中症の初期症状とも重なるため、本人も周囲も判断を誤りやすい。

ぼやけたスーパーマーケットの景色
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さらに厄介なのは、低血糖だと思って糖分だけを取っても、(当然のことながら)熱中症による脱水や体温上昇は改善しない点である。逆に、熱中症だと思って水分補給だけで様子を見ている間に、低血糖が進めば意識障害につながるおそれもある。

「暑い環境で糖尿病治療中の人が倒れた場合、低血糖と熱中症は別々の問題ではなく、互いに見逃しを招く“重なり合うリスク”として考える必要があるのです。また近年ではSGLT-2阻害薬といった、利尿作用のある薬剤を使用している患者さんも多いので、しっかりと水分、特にカフェインの入っていないお水や麦茶などの摂取が必要です」(坂本医師)

つまり、糖尿病治療は“血糖値を下げる”という本来の目的を果たす一方で、生活のリズムが乱れた瞬間に、血糖値を下げすぎる危険にもつながる。

働き盛りの世代では、残業や会議で食事が遅れたり、暑さで食欲が落ちたり、急に運動量が増えたりすることは珍しくない。その結果、薬が効きすぎて低血糖が起きる。

そして繰り返しになるが、その症状は、熱中症と驚くほど似ている。

「低血糖でも熱中症でも、めまい、冷や汗、動悸、意識がぼんやりするなど、表に出る表面的な症状だけでは見分けにくい。しかも暑い場所で起きれば、周囲はまず熱中症を疑いますし、本人は糖尿病治療中であれば低血糖だと思い込みやすい。そこに判断の難しさがあります」(坂本医師)

糖尿病では43.6%が「勤め先に相談・報告せず」

アキモトさんが糖尿病を職場に言えなかった背景には、「自己管理ができないと思われたくない」という心理があった。

しかし、この心理は彼だけのものではない。

労働政策研究・研修機構の「治療と仕事の両立に関する実態調査(患者WEB調査)」では、働く人の約3割が職場に持病を伝えていないとされる。

特に糖尿病では、43.6%が「勤め先には一切相談・報告しなかった」。理由の多くは、「自己管理不足と思われたくない」「自分でなんとかできる病気だ」「心配・迷惑をかけたくない」というものだ。

糖尿病は誰でもなり得る病気であり、現代の働き方そのものが発症リスクを高めているにもかかわらず、“自己責任の病気”という誤解が根強いようだ。

その結果、病気を隠したまま働き、暑さやストレスで症状が悪化しても言い出せず、倒れて初めて周囲が気づく――こうしたケースは珍しくない。