残業しない、家を買わない、結婚しない
その結果としてこの国では「若者への投資を後回しにしてでも、現在の高福祉社会を維持する」というコンセンサスが静かに形成された。住宅、教育、子育て、賃金、雇用、将来への投資を少しずつ後回しにし、その一方で高齢者向けの給付とサービスを守り続けることを選んだ。
上に政策あれば下に対策ありとはよくいったものだ。成熟した民主主義が「若者を切り捨てても現在を守る」と決めたのなら、若者の側もまた合理的に適応するようになった。「それなら、こちらも社会を支えるためにフルパワーで働くのはやめます」と。
出世を目指さない。残業しない。高い家を買わない。結婚しない。子どもを持たない。クルマも服も酒もいらない。政治にも期待しない。こうして若者は、怒鳴りも暴れもせず、ただ自分の人生から燃費の悪い要素を一つずつ切り離していくようになった。それがようやく、私たちの目にも見えるようになってきた。
省エネ型の攻略法
社会からの求めに応じずいそいそと「退出」する――その実践のひとつの極致が、「独身こどおじFIRE」だ。
独身のまま実家で暮らし、住宅費を極小化し、若いうちにまとまった金融資産をつくる。その後は運用収益と週数日のゆるい労働を組み合わせ、所得も消費も必要最低限に抑える。完全に働かないわけではない。社会との接点と毎月のキャッシュフローを確保しながら、フルタイム労働と住宅ローンと家族扶養を人生から外す。これが「独身こどおじFIRE」である。
一般的なFIREが「十分な資産を築いて労働から自由になる」という富裕層の夢だとすれば、独身こどおじFIREは少し文脈が違う。豊かな生活を手に入れることより、必要生活費を徹底的に引き下げ、課税される所得を最大化しないことに重点がある。大きく稼いで大きく使うゲームそのものから降りるのである。豪華な上がりではない。省エネ型の攻略法だ。

