政府の号令ですら欲望にはかなわない
なぜ中国政府は、日本への攻勢を軟化しているのか。中国市場アナリストたちは、消費社会の構造が変化したことに大きな理由があると見ている。
愛国心から中国ブランドを選ぶ「国潮(グオチャオ)」の流れはすでに拡大期を過ぎ、消費者は国産・外国ブランドの双方を受け入れるようになった。チャイナ・マーケット・リサーチ・グループのショーン・ライン氏は、「中国人はもう、中国ブランドだからという理由だけで買うことをやめた」と指摘する。
景気も雇用も先行きは不透明だ。そうした状況で消費者が重視するのは、暮らしに合うか、値段に見合うかだ。
北京拠点のコンサルティング会社WPICマーケティング+テクノロジーズのジェイコブ・クックCEOも、AP通信の取材で同じ見方を示す。「中国の消費者、とりわけ都市部の中間層や若い世代は、日々の買い物をナショナリズムで決めているわけではない」との分析だ。
独立系の中国消費者アナリスト、ヤリン・ジャン氏は、さらに踏み込む。「地政学が現地レベルの商流をそのまま左右するわけではない」
コンサートや映画配給なら、行政の許認可ひとつで止められる。だが、街角の飲食店や小売店に足を運ぶ数千万人を、号令ひとつで止めることはできない。
愛国心より経済的な実利を優先する傾向は、社会に着実に定着しつつある。中国には経済不安も広がる。こうした中、手頃に日常生活に華を添えられる日本発のチェーン店まで規制しては、国民の不満がかえって政府に跳ね返りかねない。
規制強化の余地は残る
とはいえ、日本食を自由に楽しめるこの状況がいつまで続くかは、誰にもわからない。
懸念すべき前例がある。CNNが報じるように、2016年、韓国がアメリカの弾道ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると、中国はその報復として韓国の公演やドラマを事実上締め出した。
あれからほぼ10年。いまだに、この規制は解除されていない。
中国の対抗措置がさらに厳しくなるとの見方もある。中国外務省への助言経験もある、復旦大学アメリカ研究センターの呉心伯センター長は、昨年12月のブルームバーグの取材で、「高市が立場を修正しなければ、中国は圧力を強めるだろう。今後を注視しよう」と発言。動向によっては、現地で展開する日本企業に影響が及びかねないとの見方を示した。
もっとも、ブルームバーグによると現在のスシローは目下、大盛況だ。人気のあまり、客同士のトラブルも起きている。レジの横には、「規律と公正さを守るため、ご協力をお願いします」の張り紙も貼られた。
政治摩擦をよそに中国の人々はスシローに列をなし、思い思いに寿司をほおばっている。

