ステージから降ろされた日本人歌手
政府の締めつけは、個人のファン活動にも波及している。
CNNによれば、ユイと名乗る中国の18歳のアニメファンの女性が、中国南部のアニメコンベンションに着物のコスチュームで参加してよいかを中国のInstagram風SNS「小紅書」で尋ねたところ、たちまち炎上した。約2000元(約4万8000円)をかけて用意した衣装だったが、「不適切かもしれない」と感じた彼女は、結局それを着ることを諦めた。
影響は日本人パフォーマーにも及んでいる。
CNNの集計によると、昨年12月1日時点で、少なくとも30組の日本人アーティストの中国での公演やファンミーティングが中止に追い込まれた。アニメ『ONE PIECE』の主題歌で知られる大槻マキ氏は、上海公演のさなかにスタッフからマイクを奪われ、そのままステージを降ろされた。
コスプレの禁止やコンサートの中止は、実質的に日本への制裁や日本文化の抑圧に当たる。だが2012年に中国全土を揺るがした反日暴動と比べれば、そのやり方はまるで違う。
2012年、日本政府が尖閣諸島を国有化すると、北京や上海など十数都市で、反日デモが一斉に発生した。ブルームバーグが報じるように、官製メディアは好戦的な論調で世論をあおった。群衆が街に繰り出して日本ブランドの車を叩き壊し、日本料理店を荒らした。
西安では、トヨタ・カローラに乗っていたというだけで中国人ドライバーが暴行された。その映像がネットに広まり、日本車離れが加速した。ユニクロは中国の42店舗を一時閉鎖。イオンも広東・山東両省で35店中30店の営業をやめた。
例外的に差し止められなかった『鬼滅の刃』
これまでの日本への反発と比較すれば、今回の当局の対応は限定的だ。例えば、映画はどうだったか。
日本のアニメ映画『鬼滅の刃 無限城編』は昨年11月に中国で公開された。その3日後、当局は他の日本映画の新規公開を差し止めたものの、公開済みの同作は上映が続いた。CNNによると、同作は2025年の中国における輸入映画で興行収入2位、6億3000万元(約150億円)超を記録している。
ブルームバーグは昨年12月、こうした選択的な対応を「中国の経済的威圧が進化した姿」と位置づけた。報復の度合いを加減することで、国内消費の冷え込みと抑えきれない社会不安を回避する狙いがあるという。
中国共産党機関紙『環球時報』の胡錫進(コ・シャクシン)元編集長は、中国で最も声高なナショナリストの一人として知られる。その胡氏ですら、今回は一転して反日姿勢の自制を呼びかけた。昨年11月、微博(ウェイボー)に、「対日闘争は長期化しうる。中国社会の堅固さ、理性、団結を維持することが持続力を意味する」と投稿している。
胡錫進氏は中国共産党の意向に沿った発言で知られており、習近平政権として今回は過激な日本バッシングを避ける意図があるとも読み取れる。

