感動を通じて愛国心を刷り込む
婁山関で長征の追体験を終えたチェンさんは、グローバル・タイムズにこう語る。
「没入型の赤色体験は、誰もが『歴史の体感者』になれることに最大の意義がある。真の理解は、体感することから始まる。このアプローチにより、より優れた赤色教育が実現しつつある」
歴史教育のあるべき姿を述べているようにも聞こえる。だが、筋書きのあるエンタメ施設で「体感したこと」は、「真の理解」ではない。感情的な体験が鵜呑みになり、エンタメ施設で起きた「歴史」は「真の歴史認識」にすり替わってゆく。長征であれ抗日戦争であれ、これこそが没入型のレッドツーリズムに潜む最大の問題だ。
2024年12月、北京で開かれた第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話。青少年交流や観光を語り合うその席で、王毅外相は翌2025年が「抗日戦争勝利80周年」にあたることに触れ、「前事を忘れざるは、後事の師なり」と日本側に迫った。交流促進の会議の場で、歴史問題を切り出した形だ。
「歴史を忘れなければ、未来の指針となりうる」との含意だが、国民の、とりわけ感情に突き動かされやすい若者世代の心情を揺さぶり、党の歴史観を自ら体験した実感として植え付ける抗日テーマパークは、果たして正しい歴史認識の継承に貢献していると言えるのか。
武郷県では、今日も列車に乗った参加者たちが、日本兵を次々と撃ってゆく。自ら体験した歴史の「真実」に心を動かされ、日本兵から国を守った充実感に浸りながら家路につく。


