131億円かけた「日本兵撃ち」施設
こうした設計思想のもと、山西省武郷県では抗日感情に直接訴えかける体験施設が造られた。
抗日戦争中、中国共産党が指揮した軍隊「八路軍」に、この地から9万人以上が加勢しした。いま同地は、中国共産党の革命遺産をめぐるレッドツーリズムの名所である。そこに、地方政府が約8000万ドル(約131億円)を投じた抗日テーマパーク「八路軍文化園」がある。
来場者は八路軍か日本軍、どちらかの軍服を選んで身につけ、おもちゃの銃で撃ち合う。米外交政策ブログサービスのフォーリン・ポリシー・アソシエーション・ブログによれば、園内にはPC向けサバイバル・シューティングゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』を参考にした塹壕戦シミュレーションや、走る列車から線路沿いの日本兵を撃つアトラクションもある。
演劇セクションでは、日本兵に扮した俳優が、私服姿の八路軍兵士を日本刀で刺し、さらに銃で撃つ。
武郷県ではこのほか、旧八路軍総司令部の跡地に、革命関連の記念・教育・観光施設を集約した「赤色文化エコシステム」を設定。政府指定の「愛国主義教育基地」と位置付けている。香港公共放送の香港電台が2025年7月に報じたところでは、抗日戦争勝利80周年にあたる同年、同地では教育ツアーが実施され、年間20万人超の来場者を見込んでいるという。
愛国教育法で急拡大したレッドツーリズム
中国各地の観光地で愛国教育プログラムが一斉に導入された背景にあるのが、2024年1月に施行された「愛国主義教育法」だ。
同法は「国家の統一強化」を掲げ、幼い子どもから社会人まで、学習と仕事を通じて国家と中国共産党への愛を育むことを義務づけている。CNNによれば、レッドツーリズムと直結する条項として、博物館や図書館などの文化施設を愛国主義教育の会場とし、観光地を「愛国心を呼び覚ます場所」に位置づけるよう命じたものがある。
学校に対しては、当局が「政治・思想の歩く教室」と呼ぶこれらの施設への社会見学を義務づけている。こうした見学は以前から行われてきたものの、新法によって初めて法的拘束力を与えられた。
中国共産党は、国民の統率に躍起だ。2022年末、中国各地の若者がゼロコロナ政策に反発し、無言の抗議を象徴する白い紙を掲げて街頭に立った。現代中国では異例の抗議運動、「白紙運動」だ。経済は低迷し、若年層の失業率は翌年に過去最高を記録した。
ノッティンガム大学で中国政治を専門とするジョナサン・サリバン准教授はCNNの取材に応じ、中国が長年、国民は中国共産党の統治方針を受け入れるという暗黙の「社会契約」に頼ってきたと指摘。ただし、「今後数年は波乱含みになるだろう」と警告し、「中国を愛するなら党を愛すべきだ、という方向に固めようとしている」と分析した。

