国共内戦の紅軍に想いを馳せる

続いてチェンさんの隊が山道を進むと、突如「封鎖線」が現れる。長征中に紅軍が幾度も突破を強いられた、国民党軍の包囲陣地を模したものだ。

閃光が走り、四方から爆発音と銃声が轟く。参加者は反射的に身を屈め、号令に従って突破。沿道では宣伝隊が拍子木でリズムを刻み、声援を送る。

「戦闘が起きるとわかっている。でもいつ来るかわからない。その予感がじりじりと苦しかった」と、チェンさんはグローバル・タイムズの取材で振り返る。

坂の途中で息を切らし、岩にもたれた。その瞬間、ある考えが頭をよぎったという。今の条件でこんなに疲れるのに、ライフルを担ぎ、わら草履を履いて、空腹のまま戦った紅軍はどうやったんだろう。疲労の中、91年前の兵士たちの苦闘を身をもって味わったと言う。

地鳴りのような吶喊とっかん(鬨の声)とともに頂上の「敵陣地」を制圧した瞬間、参加者全員から歓声が湧き上がった。

約40分の体験を終えたチェンさんは、こう話す。「学校では長征の精神は遠い話で、試験に出るだけのものだった。でもあの午後、谷間に立った瞬間、自分も歴史の一部になれた気がした。教科書に名前が載っている人たちが、すぐそばにいるように感じられた」

紅軍の聖地である井崗山(中国江西省)
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紅軍の聖地である井崗山(中国江西省)(※写真はイメージです)

設計された「自発的な感動」

参加者の感動は、自然に湧き上がった感情のように見える。だが、その裏には緻密な設計意図がある。

グローバル・タイムズによれば、婁山関プログラムの運営責任者ヤオ・ディファ氏は、従来のレッドツーリズムの限界を認めている。

ヤオ氏が語るのは長征をテーマにした体験についてだが、その設計思想は、臨沂の抗日体験や武郷の抗日テーマパークにも通底するレッドツーリズム全体の方法論にも通じる。曰く、若者が記念館を訪れても、展示物とどう向き合えばいいかわからない。

「知識は客観的だが、感情は主観的だ。感動を強制することはできない」とヤオ氏は語る。

だからこそ、来場者自身をエキストラとして物語に参加させる仕掛けが要る。ヤオ氏が設計の柱に挙げるのは3つ。強い儀式性、高密度な感覚刺激、そして集団行動の力だ。

歴史を講義として聞かせるのではなく、その場でしか味わえない身体感覚を通じ、用意した物語に参加者を引きずり込む。周到に組まれたその演出プランのもと、あたかも自発的に湧き上がったかのような高揚感と感動に参加者らは胸を震わせる。