小さく取り組み大きく広げるコツ
初めから全社的な制度として導入するのではなく、まずはチームレベルで始めてみる。意義を感じ、賛同する人が増えれば、創造力を高める効果や影響力が波及し、やがて組織文化として定着していく――。これが「小さく始めて、大きく育てる」ボトムアップ型のルールデザインの実践です。
ただ「小さく始めて、大きく育てる」と言えども、やはりボトムアップ型のルールデザインにおいて、最大のハードルは第3段階(小さなアクションを起こす)→第4段階(経営側が承認し、制度化する)です。長期的に考えれば、現場からの意見表明や草の根活動によって少しずつ組織文化に変化が出てくるかもしれませんが、やはり明確に組織変革へつなげるためには、経営の理解と承認が欠かせません。
新しいルールをいかに運用し、定着させるかを考える上で参考になるのが、学習論でよく引用される「認知的徒弟制」という考え方です(注4)。アラン・コリンズやジョン・シーリー・ブラウンらが提唱したもので、徒弟制における学習過程を定式化した支援モデルです。
職人の世界では親方や師匠が弟子をいかに育て、自立を促していくのか。その学習支援プロセスは次のようなものです。
モデリング(Modelling):熟達者がやってみせ、思考の手順も見える化する
コーチング(Coaching):学習者の実践を見て、その場で助言・フィードバックする
足場かけ(Scaffolding):課題を進められるように支え(足場)を用意する
言語化(Articulation):学習者に自分の考え方を言葉にさせる
リフレクション(Reflection):自分のやり方を熟達者や他者と比べて振り返る
探索(Exploration):学習者が自分で問いを立て、解き方を探しにいく
前半では教育者が丁寧に足場をかけ、後半にかけてその支援をフェードアウトさせていく。後半では学習者が主体となり、自律的な学びを促す過程となります。これに倣えば、組織におけるルールデザインにおいても、導入期はルールの意義や動機づけを重視し、納得感を醸成する「足場かけ」が不可欠だと言えるでしょう。
注4:Collins, Allan, S Brown, John; And Others(1987) “Cognitive Apprenticeship:Teachirg the Craft of Reading, Writing, and Mathematics”. Technical Report No.403.
メンバーに「あえて雑に説明する」理由
他方で、マネジャーがいつまでも「良かれ」と思って、新しい施策を導入するたびにマイクロマネジメントで丁寧すぎるほど説明して回っていたら、「もうわかったから!」となりますよね。
ルールの根拠や論理を丁寧にすればするほど、短期的な「納得感」は高まりますが、過剰かつ継続的にやり続ければ、メンバーには受動的な態度が定着してしまいます。
過剰な説明責任の完遂は、メンバーから「自分で意味を見いだす機会」を奪い、結果としてその主体性を去勢してしまいかねません。
ルールが定着するまでは、なぜそのルールを守る必要があるのか。その意義や道具としての有用性を実感させるストーリーテリングを試みながらも、どこかのタイミングであえて“雑”に説明してみる。そして徐々に自ら意味を考える「余白」をつくっていく。こうした意図的な「ホスピタリティの引き去り」こそが、マネジャーとメンバーの間にフラットな関係性を築き、ともに組織を運営する当事者意識を育む鍵になります。
