「選択肢がいっぱい」が逆効果に

選択肢は、多ければ多いほど良いと思っている人もいるかもしれません。確かに「情報が多ければ多いほどいい」というのは、伝統的な経済学の考え方です。「人間は正しく合理的な意思決定をもとに行動できる」というのが伝統的な経済学の基本なので、たくさんの情報の中からベストを選べば最良のものが手に入る、というわけです(※参考:『行動経済学が最強の学問である』相良奈美香/SBクリエイティブ)。

一方で、多くの選択肢を持つことは、かえって逆効果になる可能性があるという研究が蓄積されています(Iyengar & Lepper, 2000; Iyengar, Wells, & Schwartz, 2006; Schwartz, 2004)。行動経済学の世界では選択肢が多すぎることで逆に選べなくなるという「選択オーバーロード」という理論もあります。

2022年のアメリカでの「選択オーバーロード」の調査によると、対象者の28%が「買い物をする際、選択肢があまりにも多すぎる」と回答しており、特に日用品は48%のアメリカ人が「選択肢がありすぎて選べない」と述べています。(※参考:『行動経済学が最強の学問である』)。

選択肢の数が増えると、購買行動には複数の心理的プロセスが影響すると考えられます。まず、選択肢が増えれば増えるほど、消費者は自分のニーズに合った商品を見つけやすくなると考えられます。もしこの要因だけが働くのであれば、選択肢が増えるほど購買は増加するはずです。

食べ物でいっぱいの棚の前で買い物カゴを持って立つ人
写真=iStock.com/SDI Productions
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選択肢が5000もあったら選べない

しかし一方で、選択肢が増えると、自分の基準を満たす商品が複数見つかり、しかもそれらの主観的価値がほぼ同じである場合、選択が難しくなります。さらに、選択肢が増えるほど、それらを評価するための認知的負荷(思考の負担)も増加します(Keller & Staelin, 1987)。

例えば、楽天市場で「ティッシュペーパー」と検索したら、5000件以上ヒットします。同じ種類でも5箱×3セット、6セット、12セットなど選択の余地にさらされます。ティッシュのデザインや肌触りや枚数など好みはあるかもしれませんが、5000以上の選択肢も必要ないことは満場一致だと思います。

それでは行動経済学の観点からは、選択肢はいくつくらい提示するのが良いのでしょうか。

トロント大学のアヴニ・シャー氏が調査を行いました。この実験では、被験者である学生に「もし、この中に欲しいペンがあったら1本購入してください。なければ購入しなくていいです」と伝え、ある人は「2本から1本選ぶ」、ある人は「20本から1本を選ぶ」というように選択肢の数を変えます。