じつは井伏鱒二も味わっていた
先に述べた通り、夜の公園でセミを探す人の中には外国人も多い。その背景には、自国の食文化があるのだろう。じつは日本でも昔は、「山の恵み」としてセミ食を楽しむ人たちはいた。
井伏鱒二の「スガレ追い」(筑摩書店『井伏鱒二全集25』に収録)にも、実においしそうなセミ食の描写が登場する。ハチの好物がアブラゼミの肉だという記述のあと、「人間が食べたって結構な食べ物です」と書かれている。そして、次のように続く。「あいつの幼虫も食べたらうまいんです」「幼虫はイモムシくらいの太さですが、このごろビールのつまみにいっぱい出ています」「バタいためもいいし、テンプラもかりかりしていいし、から揚げもいいです」。井伏鱒二が、さまざまなセミ料理を楽しんでいたのが、よくわかる。
戦後から人々の暮らしが急激に変わっていく中で、日本ではセミを食べるという楽しみは珍しいものになってしまった。しかし、今でも一部の愛好家の間では大人気の食材だ。地域のルールやマナーの遵守、環境への配慮は大前提となるが、「セミを食べる」という視点を持つことで、身近な自然や身の回りの生き物の見え方が一変するのも確か。この夏、夜の「ちょっとした冒険」と「新たな味覚」に挑戦してみてはいかがだろうか。また、夏の限定品としてセミを提供しているレストランも複数あるので、そういった店でチャレンジしてみるのもいいだろう。


