トップシェフからの依頼で始まった開発
この思想が、新たに発売した「バーミキュラ キッチンナイフ」にもそのまま貫かれている。
きっかけは、バーミキュラの鍋を愛用する料理人たちの声だった。プロの料理人が使う鋼の包丁は食材の香りや旨味を損なわない一方で、錆びやすいという弱点を抱えている。しかし、ステンレスの包丁は錆びには強いが、切れ味では劣る。また、少しでもサビが出ると金属臭が移って食材のいい香りが消えてしまうこともある。和食や寿司を手がける職人ほど、この差に敏感だという。
「そういうトップシェフたちは必ずといっていいほど鋼の包丁を使っているのですが、鋼だけど錆びない包丁をバーミキュラで作ってほしいという依頼を約7年前からいただいていました」
鋼の包丁は、切った瞬間から錆び始めるほどデリケートだ。だからこそトップシェフは使うたびに刃を拭くのだが、それでも刃先には少しずつ錆が浮く。これを落とすには錆取り剤で磨くしかなく、研ぎと合わせて刃はどんどん薄く、短くすり減っていく。問題はここに、職人の高齢化による人手不足が重なることだ。
畑違いの包丁を作るための「相棒」
例えば和食の職人が握る長い柳刃包丁は一本ずつ手作業で仕上げられるため、新調しようとしても納期は7年から10年に及ぶという。つまり、今使っている一本が錆と研ぎですり減って寿命を迎えたとしても、次の一本はすぐには入手できないのだ。
「納期が長くていつまでも手元から包丁がなくなってしまう。彼らにとってそれが一番の問題なんです」(土方氏)
切れ味と引き換えに、道具そのものが手に入らなくなるリスクを職人たちは抱えていたわけだ。そこでバーミキュラでの包丁開発が始まった。
とはいえ、バーミキュラの鍋に使う鉄と包丁に使う鋼は異なるため、自社製造は考えなかったと土方氏は語る。
「うちは鋳造メーカーなので全然違うんです。鋳鉄はカンタンに説明すると鉄にカーボン(炭素)を3%以上入れて造形しやすくして、工業系の部品に使われます。包丁には向かないんです」
鋳物と刃物とでは、そもそも素材となる金属の作り方から異なる。そこで協業相手として声をかけたのが、愛知県犬山市に本社を置く名古屋特殊鋼株式会社だった。もともと、土方氏と名古屋特殊鋼の会長との間には、個人的なつながりがあった。約5年にわたり材料探しを続けてきた土方氏に対して、名古屋特殊鋼の技術者たちが持ち込んだのが「粉末金属工法」というアイデアだった。


