悩んでいる相手の本音を引き出すにはどんな話し方をすればいいか。人材コンサルタントの瀬田千恵子さんによるビジネスノベル『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』(加藤洋平監修・解説、日本能率協会マネジメントセンター)より、紹介する――。
インナーとアウターの往復運動
登場人物紹介
大石慧:成長著しい情報通信事業会社の事業戦略部チームリーダー。
坂井悠人:営業部の若手。
朝のオフィス。ブラインドの隙間から差し込む陽光の中で、大石慧はPCを開く前にノートを広げた。昨夜書き留めた言葉が目にとまる。
内から外へ。そしてまた内へ。
自分を整えるインナーリーダーシップだけでは、自己規律が強くなるものの自己満足になりかねない。外に働きかけるアウターリーダーシップだけでは、内面が整理されず矛盾が起きる。整えた心で行動し、その手応えをまた自分の内面に取り込む。この循環こそが、リーダーとして成長する要件なのだと、慧は強く思う。
その日の夕方。その循環を試す場面が唐突に訪れた。
慧のPCから、チャットの通知音が鳴り響いた。画面を開くと、「新製品プロジェクト」のグループチャットで、営業の佐伯誠と開発の松田健司が激しくやり合っている。
佐伯(営業):「だから、その仕様じゃ納期に間に合わないって言ってるんです。営業現場の状況をもう少し考慮してくださいよ。」
松田(開発):「営業の状況は理解しています。ただ、安全性を無視してリリースしたら、後で取り返しがつかなくなると言ってるだけです。」
文字だけのやり取りだが、画面越しにふたりの感情の熱量が伝わってくる。他のメンバーは既読をつけたまま沈黙し、タイムラインは凍りついていた。

