手応えを社外で横展開する
週末の土曜。慧は、都心のコワーキングスペースで開催された「リーダーシップと未来の働き方」という異業種交流会に参加していた。
本来なら、平日の疲れを癒やすために週末は家でゆっくりしたいところだが、今週の若手社員との1on1で掴んだ「まずは自分を整え、相手を受け止める」という手応えが、彼のリーダーとしての成長意欲を強くしていた。あの手応えは他でも通用するのか、それを確かめてみたかったのだ。
会場には、外資系IT企業のエンジニア、NPOの代表、地方のカフェ経営者など、普段の業務では出会えない多彩な顔ぶれが集まっていた。
グループディスカッションが始まると、すぐに議論が熱を帯びた。テーマは「チームの生産性をどう上げるか」。
初めは参加者同士がそれぞれの思いを述べ合っていたが、その場の緊張感が抜けた頃になると、外資系IT企業のエンジニアの男性とコミュニティカフェを運営する女性の間で小さな意見衝突が起きた。
「生産性を上げるには、業務を細分化して、感情を持ち込まずにマニュアル化するのが一番早いんですよね」とエンジニアが主張する。対して、カフェ経営者は首を横に振る。
「それだとスタッフの心が離れていかないですか? 大切なのは、お互いの背景を知り合う無駄なおしゃべりの時間だと私は思います」
議論は平行線をたどり、場の空気が徐々に険悪になっていく。
外の世界に触れて、また内面が豊かになる
ふたりのやりとりを冷静に見ていた慧はそれぞれの主張の奥にある「共通の願い」が見えてきたところで、静かに口を開いた。
「おふたりの話を聞いていて、気づいたことがあります。システムエンジニアとして『メンバーが迷わず作業できる仕組み』を大切にされていますよね。一方、『カフェのスタッフはチームワークで働けることが結果的に良い仕事につながる』とおっしゃられました。でも、どちらも『働きやすさで成果を上げていく』という目的は同じですよね?」
その一言で、ふたりが顔を見合わせた。
「実は私のチームは以前、効率優先で、チームワークにはさほど関心を寄せずにうまく回らなかったことがありました。その反省を踏まえて、メンバー同士のつながりを土台にして、その上で仕組みを回すようにしたところ、自律的に意思疎通が行われ、それがチームとメンバー両面の成果に如実に現れたんですよ」
エンジニアの男性が、深く頷いた。
「なるほど……、チームとメンバー両面か、その視点は弱かったかな」
休憩時間、カフェ経営者の女性が慧に話しかけてきた。
「助け船、ありがとうございました。何のためにスタッフのコミュニケーションがあるのか、改めて考え直すことができました。……そういえば、私の店ではスタッフのやる気を高めるために、『お客様からの感謝の手紙』をスタッフルームの壁一面に貼っているんですよ。それを見ると自然と雑談の話が弾んで、チームワークにすごく効果があるです」
そのエピソードを聞いて、慧に一つのアイデアがひらめいた。
(チームの「感謝の声」を可視化する仕組みを、自分のチームでも作れないだろうか?)
研修のあと参加した懇親会の帰りの道すがら、慧はある手応えを感じていた。
「自分を整えて、場に関わる」は、社外の初対面の人たちにも通じるんだ、と。
そして、外の世界に自分を開いたことで、思いがけないヒントも得られた。
内面を整えて外へ出る。外の世界に触れて、また内面が豊かになる。その循環がリーダーの器、そして人の器が大きくなっていく上で強く関係するのではないか、そんなことも漠然と思った。

